先に、東京国際フォーラムで武者陵司、森永卓郎両氏の講演を聞いた後、帰り道の渋谷
で降りて、17時40分開演の「恋の罪」をヒューマントラスト渋谷で株主優待を使って
観る。

武者陵司氏は、リーマンショック、ギリシャショックなどの世界で起きている現象は
企業利益の拡大と失業率の拡大を示すアメリカに見られるように技術革新の進展に伴う
歴史的な転換点を示すものであって、決して暗い未来を予見させるもので無いことを繰り
返された。

森永卓郎氏はテレビネタを盛り込みながら、アメリカのいいなりになる野田内閣の
時代はデフレが続くので、反転の時期までは節約を続け、自身の手法を紹介されながら、
不安定な年金制度の下での老後資金の確保を説かれた。

そうした両氏の発言が頭に残っていたためか、チケットを買う時に、思わず「恋の扉」と
言ってしまったので、販売員から「恋の罪」と訂正されてしまう始末であった。

園子温監督作品は「冷たい熱帯魚」を伊勢丹に寄ったついでに、テアトル新宿で観た
のが初めてであった。

「冷たい熱帯魚」はトリカブト保険金殺人事件からヒントを得たものと思われるが、
当を得た配役による役者の動きに目を見張ったものだ。

そして、一時期の日活ロマンポルノのような、時代を穿つ感性が蘇ってくる作品だとの
印象をもった。

「恋の罪」は、チラシのコピーにもあるように
「90年代、渋谷区円山町ラブホテル街で起きた
 実在の殺人事件からインスパイアされた、禁断の世界―」を表現した作品とある。

さらにチラシのコピーは
「土砂降りの雨が降りしきる中、
 ラブホテル街のアパートで女の死体が発見される。
 女刑事・和子(水野美紀)は謎の猟奇殺人事件を追ううちに、
 大学のエリート助教授・美津子(冨樫真)と人気小説家を夫に持つ清楚で
 献身的な主婦・いずみ(神楽坂恵)の驚くべき秘密に触れ引き込めれていく・・・・・
 事件の裏に浮かび上る真実とは?3人の女たちの行きつく果て、
 誰も観たことのない愛の地獄が始まる。―」と続いている。

水野美紀がこの作品に出演し、全裸の姿を顕わにしたのには驚いたが、終始、娼婦側に
落ちていく危うさが醸し出され、ラストシーンへの繋がりへの理解を容易にさせた。

「冷たい熱帯魚」同様、豊満な胸を顕わにする神楽坂恵だが、性的な解放から表情が
生き生きと色っぽくなっていく変貌がとても魅力的であった。園子温監督と先月の24日
に結婚したとも聞く。

冨樫真がとてもいい。大学の助教授(正しくは准教授?)役と娼婦の役を演じる落差が
秀逸だった。冨樫真が演じる娼婦を観ていると、五大路子さんの「横浜ローザ」のメリー
さんと重なって見えてしまうのだ。「横浜ローザ」も時代と自身の境遇との戦いであった
のだろうと思う。

また、冨樫真を母親役を演じた女優がまた、とてもいい。映画の締りをつける役柄に脱帽
するしかなかった。

こうした女優陣の役回りに刺激を受けてか、雨降る中にもかかわらず、映画を観終わった
後に道玄坂商店街を横切り円山町当りを彷徨ってみたのであった。どの辺りから円山町に
踏み込んでいるのか解らずに、時には若いカップルとすれ違いながら彷徨ってみた。

しかし、舞台となった廃屋のアパートにぶつかることはなかった。

ラブホテル街からやや外れ、神泉方面に降りていく道すがらに、幾多のオシャレな飲食店
を見かけた。 鮮魚店が経営していると思われる開花亭にはスラブ系と思われる外国人の
グループがいくつもテーブルを囲み談笑していた。

オシャレな立ち呑みやカジュアルなフランス料理店も軒を並べている。どさくさであったが
こうした店が発見できたことで渋谷の広がりを知る思いであった。

けばけばしくも隠微な趣が漂う渋谷区円山町辺り、園子温ワールドを理解すべくの衝動が
束の間の彷徨いを誘い、より現場へ、より現実へ、そして真実へと掻き立てたのだった。


たとえ映画の鑑賞であったにしろ、関わる事象には、「より現場へ、より現実へ、そして
真実へ」の作法を今後も貫いて行こうと思うのだ。