稔が空中戦闘で、その命を散らした後、実家に、戦死の
報せが届いた。
しかし母は、その手紙を受取ろうとしない。
郵便局員から、顔を身体ごと後ろに背け、拒否した・・
--たとえ息子や、夫が亡くなっても、
『名誉の戦死』 だから、泣くことは許されないのに--
母の目からは、堪えてもこらえきれない涙が、止めどなく
溢れてくる・・
彼女が、自分の故郷へ帰ったのは、終戦後しばらく経った頃。
--夫が亡くなった時ですら、実家に帰らなかった娘が
自分の顔を見るなり、子ども時代に戻ったかのように
その胸で泣きじゃくった。
娘の変化に驚くより、さぞ辛かったろう、と、母の胸は痛んだ。
父と母は請われるまでもなく、娘を迎え入れた。
そのまましばらく故郷で暮らすうち、再婚話が持ち上がった。
相手の男性には連れ子がいる。
しかし、今まで断固として再婚話を断っていた気丈な娘が、
あっさりと再婚を決めた。
理由は、連れ子の
目がくりっとした男の子--
父親に似たのか、性格はおとなしく、一緒に居るだけで、
心が癒された・・
父母が、娘の行く末に安堵したことは間違いない。
その後彼女は、幸せな晩年を送ったが、片時も稔のことを
忘れることはなく、その後半生を息子の供養に捧げた・・・
ランキングに参加しています


