寿三郎は、心を入れ替え、人が変わったように真摯に働き始めた。
が、彼の仕事はその後、長続きしなかった。
それは彼の所為ではない--京都の動乱が終わりを告げたのか、
少なくとも、長発が指揮する部隊の仕事が必要なくなったからだ。
寿三郎にとっては夢のような(良い意味でも悪い意味でも)京都での
生活はあっという間に過ぎ去り、目標も失った彼は、この先どう生き
たらよいのだろう・・・
--途方に暮れる彼に、言葉を掛けたのは、やはり長発だった。
彼は静かに告げる。
寿三郎が生きる場所は京都ではない
無論、武士の真似事を続けることもない。
そして帰る場所は、故郷以外にはない、と。
寿三郎も、彼の意見に抗うことなく、素直に耳を傾けた。
--あの日、長発に酷く叱られることが無かったら、長発に教えられた
ことが心に刻まれていなければ--決して従わなかっただろう・・・
この時彼の脳裏には、浜で懸命に働く父、母の姿が浮かんでいた。
--あれほど嫌っていた家業--両親の目を盗んでは、手伝いから
逃れた。
そんな彼を、黙って許していた両親・・
彼は気づいた--彼の幸福が、故郷以外にはない、ということに・・・
