居睡りをした・・・そう答えた寿三郎は、自分がした事の重大さを、ほとんど
理解していなかった。
--大仕事がしたいばかりで、伝令のような役割は、下働きにすぎない
小さな役割だと常に考えていた。
まさか--長発がこれ程の怒りを露わにするとは・・想像もつかなかった
だけに大きなショックを受けた。
烈火の如く怒る--とは、まさにこの長発の様子を表現したものだ
ろう--普段は沈着冷静で寛容、懐の深い長発が、まるで人格が変わっ
てしまったかのようだった・・
いったい何故これほど叱られなければならないのか--
寿三郎は面食らった。
が、意味が解らないながらも、怒るところを一度も見たことのない長発が、
これほどの怒りをぶつけるには、何か大きな理由が隠されているのだと--
理解できないながらもその理由について考え始めた頃、長発は、小さな子
どもを諭すように説き始める・・・
--彼の仕事は外見上は決して派手で目立つ仕事ではない、が、仲間の
命運を左右するほどの重要な役目であるため、居睡りをするということは
仲間意識の欠如であり、自分さえよければ人の命などどうなろうと構わな
い、そういう身勝手極まりない考えである。
彼の言葉は、寿三郎の胸に深く突き刺さった・・・
自分の仕事についていかに軽く考えていたか、大切に思っていなかったか--
長発の言葉は・・彼の言葉でなければならなかったのだろう、彼を変えた。
仲間意識の欠如、身勝手・・
傷つき、命からがら逃げてきた仲間を、実際目の当たりにした後は、より申し
訳ないという気持ちが芽生えた。
--この瞬間から心機一転した寿三郎は、仕事に真っ直ぐ向かい、不平を漏
らすことも決してなかった。それどころか、誰でもが嫌がる下働きすら厭わずす
るようになっていった・・・