寿三郎という人物は、はっきりいって剣の腕前事体はそこそこだった。
師範はそれを百も承知で、京都に送り出している--
なので、知らぬは当人ばかりなり、ということになる。
ではいったい、彼の何に着眼したのか・・?
--剣術は大したことないにも拘らず、時に、腕の立つ先輩に勝って
しまうことがあった--理由は、彼の度胸と思い切りの良さ。
故郷の村でも、周囲の目や思惑などに頓着することなく、自分のしたい
事を通してきた。それが、彼の戦う姿勢に表れる。
--とはいえ、技術レベルを上げるほどのことではないので、選ばれた
エリート達と比べれば、剣術に関してはまったくの落ちこぼれであること
には違いない。
が、加えて彼には、師範が無視できないある能力があった。
それは、身ごなしが軽く、足が非常に速かったこと。
--現代なら、スポーツ分野でかなり活躍したかもしれない・・彼の
その身体能力を、無視することはできなかった。
剣の腕前に秀でた者ばかりでなく、彼のような異色だが、何かやってくれ
そうな剣士が、一人くらいいても面白いかもしれない、そういった期待、
プラス遊び心から彼を大抜擢しようと考えたのだ。
--そんな想いが池田に通じただろうか・・?否--師範の想いなど
知る由もない彼は、彼独自の思惑から、師範と全く同じ視点で、彼の
特性を見抜いたのだった・・
