気のりはしなかったものの、あの人の指令なら従おう--
口では言っても、本意ではなかった故郷へ帰る、の気持ち・・
京都に残るための、口実となった。
配置転換にはしかし、思わぬ副産物があった。
今まで、顔を見ることすら遠慮したほど、身分も格も違うその
武士と、直接の対話を交すことになったのだ・・!
雲上の存在にも等しい武士と、話ができる--寿三郎本人
より、周りの方が驚くほどの特権だった。
そしてそれは、彼の新たな仕事が、本人の想像をはるかに
超える重要な役割であることを意味している。
--彼は、はたしてその重要性に気づいていただろうか--??
新たな仕事とは、こうだ--
トップの武士--仮に、池田長発 とする--は、寿三郎に
次のような指令を出した。
先ず、斥候としてターゲットの処に出向き、正体を絶対知られる
ことなく情報を収集、一旦戻り、長発に報告。
長発はその情報を元に戦略を決定、本隊をターゲットに向かわ
せるのだが、寿三郎も帯同させる。が、戦わせるためではなく、
戦況をいち早く報告させるためだけに--
--この役どころは、驚くべきことに、寿三郎の個性、特性
を知っていれば、正に適任と言わざるを得ないものだった・・・・
