『道場』を見た日から、それが頭から離れなくなった寿三郎・・・
用事がある日も無い日も、毎日のように道場見物に出かける--
恋患いのように居ても立っても居られないのだ。
やがて、下働きの少女と仲良くなった寿三郎は、彼女の手引きで、
いつの間にか青年たちと共に稽古をするようになっていた。
もちろん、師範の知るところではない。が、あまりにも弟子が多くて
彼らの名前や顔を、いちいち覚えていられなかったことも事実だろう。
同時に、師範は寛容な人物でもあった。
そもそも弟子入りを、身分によって許可していたわけではない--
何日も無許可で、勝手に稽古していた寿三郎が、初めて師範の前に
恐る恐る姿を見せた時も、師範は、何か怪しい--とは思いつつ、他の
弟子たちと分け隔てなく稽古をつけ、アドバイスすら与えている。
ただ、剣というものを見たことも扱ったことも無い寿三郎が、見よう見まね
でする剣術は、基本も何もない勝手剣法だったので、それではあまりにも
ひどい、ということで、マンツーマンレッスンを授けることにした。
--どこの馬の骨ともわからない寿三郎が特別待遇を受けているーー!
他の青年たちはその事実を知るや、呆れるわ、腹立たしいわ・・・
が、始めは冷ややかな目で見ていた彼等が、レッスンを重ねるうち、寿三郎
のスジがそこそこ良いことに気づかされる。
--身が軽い彼は、動きが素早い--加えて無鉄砲な性格も、闘いの場
では度胸が良い、という利点になった・・・
