前世の女性と、使用人が目にしたのは、群集が去った後、路上に、死んだようにうつ伏せで倒れている
ひとりの男性ーー
服装から判断して、中国人ではないーー 黒いハーフコートのようなものを着た外国人だ。
先程から続く一連の出来事が、現実のものだと受け入れられないまま、男性を茫然と見ていた前世の女性をよそに、使用人である年配の女性は、躊躇なく男性の元に駆け寄った。
そして女性に声をかけると、家の中に入れるのを手伝うよう指示した。
『まだ生きてる。気を失っているだけーー!』
ーーこの年配の女性は、前世の女性を幼い頃から知る、乳母のような存在らしい。
『ばあや』 とでも呼ぶのが手っ取り早いだろうーーなので、ご主人様である女性に指示するようなことも、我が子のように接してきたからこそあり得るのだーー
前世の女性は、しかし怖くて、そんなことはしたくないのだが、ばあやの有無を言わさぬ命令と、もたもたしていたら、後ろから再び迫ってくる集団に見つかってしまう・・まして、敵国人を助けるような姿を見られたらーー
選択肢も、時間もなかった・・・
意識のない大の男を、女性二人で(しかも一人は年配)運ぶのは大変なことだ。とにかく力を合わせて家まで引き摺り入れるしかないーー
必死で重いその身体を引き摺ると、目前に迫る群衆の目をかわし、間一髪扉を閉めた。
鍵を掛け、灯りを消し、息も殺して一団が通り過ぎるのを待つ・・・
ーーとても長い時間が過ぎたように感じた。
辺りが静まるのを待って、ろうそくの灯りを男性の顔に近づけると、ばあやが言うように、確かに息をしている。
見たところ、大した怪我もしていないようだーー
ーー前世の女性は、ばあやに逆らえなかったのと、怖かったのとで仕方なく家に入れたが、本当は、こんな
『拾いもの』
がイヤで仕方がない。
ばあやは、人道的な理由で敵であることが明らかであるにも拘らず助けたのだろうがーー
ーーー夜も更け、やがて、死んだように眠っていた男性が、目を覚ました・・・

