演奏が済めば、さっさとどこかへ消えてしまうーー
そっけない男性の後を追った前世の女性。
ごろごろとした大きな石が転がる荒野に出ると、月と星灯りだけを頼りに進んだ。
強い風が吹いていたーーすると、風に乗ってマンドリンの音がーー
ーー彼だ・・!
逸る心を抑え、悟られないように近づくと、大きな岩に腰を掛けてマンドリンを弾く
男性の姿があった。
しかしその曲は、女性が一度も耳にしたことの無いものだったーー
もの悲しい・・咽び泣くようなメロディ・・・
それは、自分のダンスのために弾くような、華やかな賑やかなメロディとはあまりに対照的なーー
しかしそれは、女性の心を激しく揺さぶった。
男性の哀しみが手に取るように伝わってきて、溢れる涙を止めることができない・・
と同時に、この瞬間女性の恋心を凌駕してしまった感情は 母性 だった。
独身で、子どもを生んだ経験もないのに、男性が我が子のようにいとおしく
そして不憫に思えた・・・
ーー男性をこの手で包んであげたいーーそんな欲求に捉われ、思わず声を掛けてしまう。
驚いて演奏を止めた男性は、女性に目を留めると、背を向けてその場を去ろうとした・・
