ソフトバンクはもはや「ただの通信会社」ではない ──
孫正義が狙う5G時代の新たな収益の柱ソフトバンクグループは、2017年度決算を発表した。
ソフトバンクグループが、2018年度3月期決算会見を5月9日に開催した。
今回の会見は、同社グループで米国第4位の通信事業者・スプリントと第3位のTモバイルの経営統合合意についての発表後、孫正義社長が初めて公の場に登場する機会。当然、プレゼンテーションや質疑応答は、スプリントに関する話題に集中した。
関連記事:孫正義に「スプリント経営統合」決意させた“5G問題”、Tモバイル接近の背後にあるものソフトバンクグループの2017年度の連結売上高は、前年度比2.9%増え9兆1587億6500万円。純利益は27.2%減の1兆389億7700万円を計上し、増収減益となった。
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ソフトバンクは現在、営業利益の70%以上を国内外の通信事業に依存するが、孫氏のプレゼンテーションを聞く限り、同社は単なる通信事業者の枠を超えるビジョンをすでに持って行動しているようだ。
Tモバイル・スプリントの経営権は「妥協した」
スプリントとTモバイルは両社の合併について同意している。
つい最近まで、孫氏はTモバイルとの経営統合後の“経営権”にこだわってきた。しかし、今回のディールで米国政府の認可が通れば、新会社の経営権はTモバイル側にわたり、同社にとっては単なる“持ち株会社”となる。
孫氏は「経営権を対等に持ちたいということを妥協した」と明言。では、同社によるスプリントの買収は結果的に失敗だったのか?
「長い意味で価値があるのであれば、一時退却は恥ではない。これは正しい判断だと思っている」と、孫氏は否定する。その根拠は株式価値の変化と次世代通信規格「5G」の到来にある。同社によると、スプリントに関する株式を日本円に換算すると、買収当時は約3800億円、現在は約5300億円であるという。スプリントの経営権はTモバイル側に完全に移行するものの、同社が所有する株式数は減少していない。「株式価値としては1500億円ぐらい儲かっている」(孫氏)と主張しているわけだ。
“米国ナンバー1キャリア”の座を射程距離に
ナンバーワンの企業を集めるために
米国の通信市場ではT-Mobileは第3位、Sprintは4位のポジション。新会社は、1位のVerizon Communications、2位のAT&Tに迫る規模感になる。事業統合により、サービス価格の見直し、5Gネットワークの構築を急ぐなどして「大競争をしかけていく」と孫会長は話す。「米国で1位になる可能性が見えてくる」(孫会長)
経営権の対等を妥協しても“ナンバーワンの企業”を手に入れたい理由がある。孫会長が、300年間成長する企業、組織モデルとして思い描く「群戦略」のためだ。 ソフトバンクグループは17年、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(いわゆる“10兆円ファンド”)を設立し、英半導体企業ARM Holdingsをはじめ各分野のトップランナーに相次いで出資、手中に収めてきた。ナンバーワンの企業を集めやすいように、各社のブランドは統一せず、持ち株比率は20~30%に抑える戦略を意図的に展開する。
財閥経営などでは、グループ内企業が全て“世界一の企業”ということは難しい。ファミリーカンパニーとの連携を優先するあまり、業界1位の企業と手を組めないという事態は、グループ全体の競争力低下を招く。そうではなく、孫会長は「持ち株比率20~30%のスイートスポットを狙い、ナンバーワンの企業ばかりを集めれば、互いに喜んでシナジーが生まれる」と自信を見せる。
「米国が重要な市場という考えは、(前回の交渉決裂から)変わっていない」と孫会長。その証拠に「Sprintの株式は、1株も売却していない」という。「経営権のコントロール、対等という条件にこだわらず、名よりも実を取った」(孫会長)
「虚勢を張らなくとも、1位を狙いに行ける」
T-MobileとSprintの統合で、孫会長は「虚勢を張らなくとも、1位を狙いに行ける」と強調する。期待の1つは、5Gネットワーク競争を勝ち抜く体力作りだ。IoT機器が加速度的に普及する中、5Gは通信速度の向上、レイテンシ(遅延)の短縮などが魅力で、自動運転車、モバイルVRなど、さまざまな分野で浸透する可能性がある。そうした中、「T-MobileとSprintの周波数帯を組み合わせると、競争をリードするにふさわしい規模になる」と孫会長は話す。
孫会長によれば、2社の統合によるシナジー効果は、ネットワーク、セールスサービス&マーケティング、バックオフィスなどのコストを足し合わせると約4.7兆円弱。長期ではフリーキャッシュフローは1.7~2.0兆円を見込む。「小さな会社であっても、ネットワークは全米に持たなければならない。それぞれが個別に持たなければいけないのに対し、新会社は経営効率がよくなる」(孫社長)
「いままではSprintがいくら虚勢を張っても、AT&Tを追い抜くのは戦略的にも構造的にも難しかったが、統合により価格競争を仕掛け、マーケットシェアで1位を狙う」と孫社長は豪語する。ケーブルテレビ大手の米Comcastなど、ワイヤレス通信分野へ参入する競合が増える中、5Gなどサービスの高付加価値化と低価格化を推し進める。「(統合による)規模の経済、ネットワークのキャパシティーが、競争を仕掛ける経営的源泉になる」
経営権よりも群戦略に関心が移った孫会長は「得られるポジションが大きければ、小さな妥協があってもいい。この1~2カ月で大人になった」と笑顔を見せた。




