
「こんな大勢の人が来てくれるとは思わなかった。懐かしい友達、初めて会う方々も。本当にうれしい。日本に店舗、そしてファクトリーを開くことは私の長年の夢だった」。

「コーヒー業界のアップル」との異名を持つ、米ブルーボトルコーヒー(Blue Bottle Coffee)の店舗がいよいよ2月6日に東京・清澄白河にオープンする。これに先駆けて3日に開かれた関係者向けのレセプション。創業者でCEOのジェームス・フリーマン氏は、店舗がいっぱいになるほど詰めかけた関係者を前に、照れくさそうにこうあいさつした。
"完璧な一杯"を徹底的に追求

同社にとって初の海外進出となる清澄白河の店舗は、面積約240平方メートル。2階建ての1階部分が店舗(8席)兼コーヒーの焙煎エリアで、2階がキッチン兼オフィスになっている。この日のレセプションでは、ブルーボトル自慢のハンドドリップコーヒー、店舗で販売するマフィンやグラノーラなどが振る舞われた。招かれた関係者たちは入れ替わり立ち替わり、フリーマン氏に駆け寄る。記念撮影を求める人も後を絶たない。
スターバックスコーヒーなど米国生まれのコーヒー店が日本に進出するのは珍しいことではない。にもかかわらず、ブルーボトルはなぜここまで熱狂を持って迎えられるのか。
クラリネット奏者だったフリーマン氏がサンフランシスコ近くのオークランド市でブルーボトルを創業したのは2002年のこと。豆の産地や生産方法にこだわるだけでなく、自社店舗で毎日焙煎をし(焙煎した豆は48時間以内に使用)、バリスタたちが手でドリップするスタイルは、ブレンド豆をコーヒーメーカーで大量に抽出するという米国での従来のコーヒーの概念を大きく変え、その後の"サードウェーブ"と呼ばれる高品質コーヒーブームの火付け役にもなった。フリーマン氏の「完璧な一杯」を求める姿勢が「コーヒー業界のアップル」と呼ばれるようになったゆえんだ。
とりわけ、ブルーボトルに興味を持ったのは、(サンフランシスコという土地柄もあって)ハイテク業界の大物たちである。
サンフランシスコに限らず、米国ではコーヒーショップで仕事やミーティング、面接まで行うのは日常的な風景だ。その潜在性に目を付け、2012年10月には、創業メンバーのほかシスコシステムズの最高戦略責任者を務めた経験を持つマイク・ボルピ氏らが2000万ドル、2014年1月にはツイッター創業者のエヴァン・ウィリアムズ氏やインスタグラム創業者のケビン・シストローム氏、グーグル・ベンチャーズらが新たに約2600万ドルを出資。潤沢な資金をテコに、現在サンフランシスコやニューヨークなどで14店舗を展開しているほか、ファーマーズマーケットなどにも出店している。
日本の現地企業と交渉、だが結局単独で

そのブルーボトルにとって日本は、冒頭のフリーマン氏の言葉通り、特別の場所だ。「日本はブルーボトルにとってDNAと言える場所だ」と、会長を務めるブライアン・ミーハン氏は言う。同氏はブルーボトルの成長性にいち早く目を付け、会長として多くの投資家を引っ張ってきた立役者でもある。
「日本の喫茶店では店主が豆を選んで、自分の手でコーヒーをドリップするという文化が昔から根付いている。そういうスタイルにジェームスは影響を受けた。彼と知り合った頃から、彼はいつかずっと日本で店を開きたいと言っていたんだ」。実際、日本には、フリーマン氏のお気に入りの喫茶店がいくつもある。
スターバックスもそうだが、外資系企業が日本に進出する場合、日本企業と合弁を設立するケースが多い。ブルーボトルも当初は複数の小売りと交渉を進めた。とくにローソンとは踏み込んだ話をしていたようだ。ローソンは「ブルーボトルの幹部の方と、新浪(剛史)前社長がハーバード大学時代の知り合いで、出店する立地などのアドバイスを行ったようだ」と説明する。
ローソンとどの程度までの話がなされたかは判然としない。しかし、いずれにしろ、単独での進出を決断した。「時間がかかるかもしれないが、自分たちのやり方で完璧を追求できる」(フリーマン氏)からだ。2014年1月にまとまった資金を調達できたことも少なからず影響しているだろう。

“聖地”とも言える日本での初出店の場所に清澄白河を選んだ理由を、フリーマン氏は、「この街は高い建物が少なく、サンフランシスコによく似ている。まずは東京の中心部から離れたところで腕を磨いて、それから都心に進出したいと思った」と説明する。3月には南青山に2号店を出す予定。「これからも日本での事業には力を入れる。日本での展開に5億ドルを使えるよう、去年たくさんの資金を集めたからね」(ミーハン氏)。
ただし、急速に店舗を拡大するというのではなく、店舗数など数値目標も立てていない。「数値目標というのは、失敗へのレシピ。私たちの場合は、いい土地を見つけられたらそこに出店する、というスタンスだ」(ミーハン氏)。
そのスタンスは1号店からも見て取れる。最寄り駅から徒歩7分程度と飲食店にとってはベストとは言えない立地だが、実は清澄白河は、今や独立系のコーヒー店が続々と進出する東京随一のカフェエリアとなっており、ブルーボトルが目指す地域密着型のコーヒー店が受け入れられやすい地盤なのである。
懸念は「資金を使い切れるか」

店の作りもそうだ。倉庫のような店内には大きな窓があり、晴れた日には気持ちのいい日差しが差し込んできそう。店内や机の上にはちょっとした花が飾られており、フリーマン氏がコーヒーだけでなく、コーヒーを飲む空間にもこだわりを持っていることがわかる。
最近は、日本でも「サードプレイス」と呼ばれる、自宅や職場とは離れた心地いい居場所作りが話題になっているが、ブルーボトルが目指すのはまさにそうした、地域の人々が日々利用するようなコミュニティである。

現在、米国では大手オーガニックスーパーなどで物販を行っているが、フリーマン氏が完璧を求める余り、そこに至るまでも相当の時間を要している。こうした中、米国メディアでは「ブルーボトルに懸念があるとすれば、それは集めた資金を使い切れるかどうか」、と指摘される。今後、日本でも店舗展開に加え、物販などの事業展開の可能性もあるかもしれないが、スピーディーに話が進む感じでもなさそうだ。
日本では目下、セブン‐イレブンの「セブンカフェ」を筆頭に、コンビニや外食店入り乱れてのコーヒー戦争が勃発している。主役は安くて、うまくて、早い、コンビニコーヒー。一方、フリーマン氏が敬愛する昔ながらの喫茶店は、減る一方だ。コーヒーだけでなく、コーヒーがあるゆったりとしたライフスタイルを提案するブルーボトルは、日本でどこまで根付くだろうか。
