プロ野球球団を持ち、日本を代表するIT企業のディー・エヌ・エー(DeNA)。その創業者が南場智子さん(52)だ。男性社会の影響が色濃く残る日本のビジネスの現場で、女性社長として、新しい業界を作って東証一部上場入りを果たしたカリスマ経営者。世界を代表する女性IT起業家として知られる。

南場さんはハフポスト日本版のインタビューに応じ、「プログラミング教育で日本は変わる」と言い、「初等教育の小学校でプログラミング教育を普及させ、将来、(Facebook創業者の)マーク・ザッカーバーグのような起業家を誕生させたい」と抱負を述べた。

また、南場さんは「DeNAは永久ベンチャー。まだまだこれから」と述べ、主力のゲーム事業に加え、ヘルスケアや教育分野でも事業を拡大していく方針を示した。

■「夫の病気で、価値観や人生が変化」

――著書『不格好経営』の中で、「DeNAの挑戦は止まっていない」「DeNAを世界のてっぺんに押し上げたい」と書かれています。今でもベンチャースピリットで企業経営に当たられているのでしょうか。

南場:もちろんです。まだまだこれからです。まだ一合目(に登ったところ)です。

――まだ一合目ですか? 世間では、プロ野球球団さえも持つ、日本有数の企業と思われています。それでは、南場さんの肩書きを今でも「ベンチャー企業経営者」と書いてもいいですか。

もちろんいいですよ。うちの共通のスローガンは「永久ベンチャー」なのです。

――ベンチャーとしての主要な取り組みをどこにおかれているのですか。

例えば、(代表取締役社長の)守安(功氏)が直接ゲームやコンテンツを、(取締役会長の)春田(真氏)が海外や野球を、私がヘルスケア、Eコマース、プログラミング教育を、といったように、取締役でも役割分担をしながら、多くの新しいチャレンジを続けています。ヘルスケアをとにかくがんばって、日本にとってプラスの事業にしていきたいです。

――そのヘルスケアに重点を置かれていく理由と言うのは、一度休職されて、看病などの経験があったためでしょうか。

私たちはたった二人の小さな家族ですが、夫が病気になったことで、すごく私の価値観や人生が変わりました。ちょっと違う段階に入ったと思います。誰でもみんなが最後はぶつかる課題なのですが、うちの場合は、(夫が)若くして病気になったので、どうしてそのような病気にしちゃったのかな、と考えてしまいました。何か体に良いことを一つでもやっていれば、ここまで後悔しなかっただろうな、と思っていました。ですので、みなさんには病気になる前に、体をいたわるということを始めてほしいと思っています。私みたいに後悔する人が一人でも少なくなるといいなと思っています。

病気になったからケアを始めるということで、基本的にヘルスケアという言葉がはびこっているのですが、それはあくまでシックケア(病気のケア)なのです。

――病気の予防の部分からしっかり関わっていかなくてはいけないと思われたのですね。

そうです。

――今、お話しを聞いていて思ったのですが、ハフィントンポストの創業者のアリアナ・ハフィントンのことを思い出しました。彼女は過労で意識もうろうとして転倒し、大けがをしてから価値観を変えたと言います。お金と権力に代わる第三の価値観、いわゆるサード・メトリックを唱えています。ストレスがなく、睡眠をしっかりとる生活をしようなどと呼びかけています。

なるほど。私の場合は、それまで感じたことのない家族のありがたみとか、自然に対する感謝の気持ちが生じました。(人間は)自然に生かされている生き物だということをなぜか感じるようになりました。そういう意味で、私はずいぶんと変わってしまった。変わってしまったというのは悪いことではないですけれども。

――遺伝子検査キットなどライフサイエンスに力を入れているのですね。

まず遺伝子から入りましたけど、考えとしては、やはり自分の体の情報、それはライフログ(生活記録)だったり、検診データや人間ドックのデータだったりするのですけれども、その中の一つとして、遺伝子情報も自分の情報となります。それを病院ではなくて、自分がオーナーとなって、自分が所有する。そして、自分のためにそれを生かすということを、病人も健康な人も、一人一人が主体的にやっていく世の中。それが理想です。それには専門的なサポートが必要になりますけど。

――(アメリカ女優の)アンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査で乳房切除を決断したようにですね。

そうですね。遺伝を含め、サイエンスというのは、まだ進歩の過程にあって、すべてが分かってはいないのです。やはりきちんとした学者さんほど、それに謙虚です。

ただ、分かってきていることもあります。例えば、食道がんに関係する遺伝子には二つの因子があるのですけれども、たばこもアルコールも摂取する人は、両方(の因子)がなくてたばこもアルコールも摂取しない人と比べて、189倍も食道がんになりやすい。けれども、両方の遺伝子があっても、たばことアルコールを摂取しないことで、6.79倍ぐらいに下がるのです。これって本当に分かってきていることの一つなのです。

こういうことが分かり始めているので、自分の中に食道がんになりやすい因子があるのであれば、たばことアルコールを止めよう、と伝えてあげたいです。それは怖いとか恐ろしいとかではなくて、知ってアクションがとれることがあるならば、人間は勇気を持って知るべきだし、自分だけのためじゃなくて、愛する人のためにも、そういうことはやってきましょうよ、と。勇気を持って、アクションをとれる。そういう社会にしていきたいのです。遺伝子情報というのは、その一歩として始めているのです。

――日本はこの遺伝子検査の社会的認知が、欧米と比べて遅れていますね。その辺りについてどのようにお考えですか。

こうした議論をきちんと始めたいのです。語ってはいけないことではなくて、みんなで(議論を)始めたいのです。サイエンスや技術は進んでいるので、分かるようになるというのは時間の問題。今はかなり分かり始めています。それをどこまでどう活用していいのですか、という大原則から、細かいルールまで決めていかないと、社会がサイエンスに取り残されてしまう。これは人間の英知としてやるべきだと思います。