土屋鞄製造所では、数十人の職人が注文されたランドセル作りに大忙し。色とりどりのランドセルの部品が並ぶ=東京都足立区で2014年10月22日午後4時22分、田村彰子撮影

 ランドセル商戦がこの数年、過熱している。こだわりの限定ものに人気が集まり、購入時期は8月から秋とどんどん早く--。なぜ、親たちは熱くなるのか。「ランドセル狂騒曲」を追った。【田村彰子】

 「ママ友があまりに早くランドセルを買っていて驚きました」。東京都内在住の会社員女性(39)は苦笑いする。来年、小学校に入学する長女のランドセルは知人の子の小学生と「同じブランドがいい」と考えていた。9月に購入するつもりだったが、8月にはママ友が相次いでそのブランドのランドセルを「買った」とフェイスブックに書き込んだ。「焦ってお店に行き、その場で即決しました。もう品薄の状態でした。店内は3世代で来ている家族でごったがえし、お試し用のランドセルを奪い合うような状況。スマートフォンで写真を撮影して、遠くの祖父母に送信している人もたくさんいました」と話す。

 職人が手作りするランドセルで有名な「土屋鞄製造所」(本社・東京都足立区)。革の種類や内部の色の違いなどで64種類をそろえるが、今年は既に完売した。広報担当によると「10年ぐらい前から、お客様の要望もあって少しずつ色を増やしました。完売する時期が早まっているのは、ここ2、3年ですね」。7月1日に全国各地の直売店で一斉に販売を開始するが、本店では早朝から行列ができる。「来年の下見に来る方もいらっしゃいます。6年間使うからこだわった良いものを、と思うご家庭が増えているようです」

 スポーツメーカーのナイキジャパン(本社・東京都品川区)は、2010年からランドセル販売を開始した。ブランドの持ち味を生かし、衝撃吸収素材や暗闇で光る反射プリントを使用。価格は6万円台だが、男子に好評で、8月の発売後約1カ月で売り切れる。広報担当者は「少子化が進んでも、ある程度の需要はあると思っています」と自信をみせる。アディダスやプーマも参入済みだ。

 01年に24色のランドセルを発売し、多色化の先駆けとなったイオンの担当者は「販売のピークはかつては秋とお正月。2、3年前からお盆の時期が加わりました」と話す。消費増税後の今も全く影響がないペースで売れているという。10月後半からは強みの「多色」を打ち出したテレビCMを打ち、終盤にさしかかった商戦で勝ちを目指す。

 博報堂こそだて家族研究所の脇田英津子上席研究員は「ランドセル購入は、日本独自のセレモニーとして確立したようです。七五三の着物選びの感覚で、こだわって選ぶ人が多い。子供も楽しめるイベントになりつつある」と解説する。ベネッセ教育総合研究所の木村治生主任研究員は「ランドセルは小学生の象徴でほとんどの子供が使います。でもどこかにオリジナリティーを求める心理があり、メーカー側はそれに対応して差別化している。購入の早期化は、少子化で市場が小さくなる中、大手メーカーの戦略によるところが大きい」と分析する。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の影響も見逃せない。脇田さんは「ここ数年、他の人が早々に『買った』とSNSに書き込むのを見て、焦って買う傾向がみられます。特に母親は、子供が恥ずかしい思いをしないようにと心配する人が多い」と話す。狂騒曲はしばらく続きそうだ。