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 小生が上野駅に勤めていたのは昭和55年5月2日から昭和61年11月30日まででございます。

 丁度、国鉄分割民営化直前までの期間でして、その後は駅内の直営店に商品を卸しておりました事から平成2年まで十年、この駅に通っていた事になります。

 通算すれば七年程度にしかなりませんが・・・・

 さて、この時代の上野駅や夜汽車の雰囲気をかなり正確に伝える秀作な絵本がございます。

←福音館書店 ISBN9784834009224(税込840円)


 西村繁男 著作の「やこうれっしゃ」がそれでございます。

 どうもロケは昭和52年年末から翌年初頭にされた様子で、優しい柔らかいタッチではあるものの、驚異的な正確さで描かれております

 最初は上野駅広小路口から御婦人に伴われた、主人公と思われる少年上野駅大鉄傘の下を歩き、中央改札口を抜けて、地平第一ホーム・13番線へ参ります。

 パレット式荷物車スニ44から始まって、そこに荷物の積み込みをしている鉄道荷物会社の職員、移動式デカワゴン売店を押している鉄道弘済会職員・・・

 絵本は捲られて行くと列車の前方に進むのですが、何時の間にか下り急行第3605列車「能登」は出発しておりまして、車内では就寝準備のご様子です。

 シーンは客車内ですが、その上下は都会から郊外へ移り変わる様子が丁寧に描かれております。

 驚愕なのは台車と床下機器でございまして、同じ普通座席車でもオハ47形式スハ43形式では台車が違うのですね、このTR23TR47が板バネや発電機のベルト取り付け位置まで、差異がキッチリ!

 やがて車内は眠りについて、でも眠りに付けなくて窓に顔を付けている御客様や、窓ガラスの息曇りに落書きしたものまで・・・

 第3605列車上野から、高崎線・上越線・・・水上から上越国境を清水トンネルで抜けて越後湯沢長岡方向転換して今度は柏崎・直江津・糸魚川を経由して参ります。

 越後の国に入ると雪深くなっています。

 それでも車内はお休みの方が多く・・・でも子供さんが親御さんに付き添われてオシッコしていたりして。

 周囲が明るくなって、富山から倶利伽羅峠を抜けて加賀の国、金沢へ。

 先頭の電気機関車EF58形式は既に金沢駅に停車中です。

 そこで主人公と思われる少年は改札を抜けて参ります。

ap2013 ←昭和56年の夏、急行第603列車「越前」。

 細かい事を言えば、若干編成が前後していたり、長岡での方向転換直江津での機関車付け替え・・・直江津から先は交流区間なので、当時はEF70形式電気機関車EF81形式電気機関車に交換していたのですが、それはご愛嬌。

 ただ、この中に「台詞」が無いのです。

 擬音の表現もございません。

 しかし、駅の喧騒、走行音、時折過ぎ去る踏切の警報音、機関車のモーターや電笛、御客様のお喋り・・・・

 そんなものが溢れ出て止め処なく、しかし耳障りには感じないのです

 そしてそこには確実に庶民の生活があります。

 それを優しく見守る鉄道屋達の柔らかい、でも確固とした誇りに裏打ちされた情熱があります

 ともかくも、夜汽車は優しいものでした

 硬いシートはお尻が痛くなりますし、当時の在来型一般客車=レトロ客車には冷房なんてございません。

 でも、旅人には優しいものでした

 温もりがありました

 出逢いと浪漫と、限りなく続く人生の逞しさがありました

 小生は終盤近くの除雪をする保線区職員の晴れ晴れとした表情に涙が湧き出て参ります。

 そんな空間がありました、現実にありました。

 分割民営化を全面的に否定するものではございません。

 しかし、人間と人間の触れ合いが薄っぺらくなっちまって、若い衆が下を向いて歩いている今日JRの経営者や管理職、全ての鉄道人、そして大人に是非熟読して頂きたい

 これが、その温もりが、いまこの国の人々が最も欲求しているものなのだ、と是非認知して頂きたいのであります。

 この絵本には、忘れかけた旅と、忘れようとしていた優しさが溢れる程積み込まれています。

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