よくこんな会話を拝聴します。
「この間、ウチの子にせがまれて、蒸気機関車に乗って来たんだよ、わざわざ静岡まで出掛けてさぁ。」
いゃ、毎度ありがとうございます、なんですが、揚げ足を取る様で恐縮ながら、御客様が御乗車賜れたのは、蒸気機関車の牽引する客車、なんですね。
んな事ぁ当たり前だろ~が!、とまぁまぁお怒りにならずに続きを・・・
蒸気機関車に限らず、機関車は動力車操縦者免許(国土交通省が発給する資格)を所持した「機関士」又は各鉄道会社が別途認めた「許可証」がございませんと、運転中は立ち入り出来ません。
さて、それでは機関車に牽引させた客車に御乗車と相成る訳でございますが、実はこんな馬鹿馬鹿しい当たり前の、原則の基本みたいな事を・・・まぁ当たり前過ぎてってのもございますが・・・当の鉄道会社職員が、余り深く認識されてない・・・そんな方が多いようにお見受け致します。
もう一点、これは広く誤解されている事なのでございますが、
「蒸気機関車なんて走らせたところで、乗っているのは鉄道マニアばかりじゃ無い?」
実は蒸気機関車列車を運行して、実際に当該列車をご利用となる御客様の質的割合は、沿線にずら~っとカメラマン達が並ぶ様な単発企画便・土日二日間だけの列車でも三割半も乗っていれば、
「うわっ!今日はなんだか息苦しいっ!」(ごめんなさい、でも本音ですわ)
ってな感じになりますが、これが限界なんですね、定型企画便・年に一度二日間、なんてぇ場合は、多くて二割程度なんです。
北海道で関ったC623機の場合、全席400のうち実際乗車数は最初の年で七割、初日の運転はご招待も多かったので基本的数値にはなりませんが、ほぼ満席の御客様のうち、鉄道ファンと思われる方・・・ええ、匂いで判りますよ・・・は、100は無かったのです。
つまり二割半程度だった訳でして、むしろ沿線の推定二万弱のファンが熱く盛り上がったのです。
ここで重要なのは、写真を撮るマニアは必ずしも乗るマニアでは無い、と言う事です。
沿線の皆様は今次話題では直接の関係は無いものですから、その「乗り鉄」の皆様から分析しましょう。
この乗り鉄の割合の上下と、その乗り鉄に於ける年代層の割合の上下は、全体としての御客様の誘引力に比例致します。
沿線での「撮り鉄」さんは、半数が自動車を利用されます。
この方達が当該地域内でどれくらいの銭を使うか、これは列車設定距離・時刻・機材で大きな差がございますが、一日一往復で撮り鉄一人当たり平均で2000円とか。
これが乗り鉄さんは、一般旅客(片道に蒸気機関車列車を利用する場合が多い)が一日一旅程で一人当たり平均で4000円に対して、何と6000円とか。
乗り鉄さんは往復で御乗車になるケースが多く、終点の観光産業にはそんなに銭を落とさないもの・・・と思われ勝ちなのですが、この機関車や列車に関るグッズなどを、車内や駅で販売される飲食物と並行して購入されるので、どなたよりも多く消費頂ける、有り難い御客様なんですね。
ちなみにこの数値には運賃は含まれませんから、総体的にはかなり大きな額になります。
さて、これも年代層が高ければ、その分消費額も上がる訳ですが、では、その効率的な御客様を呼び寄せる為には、何が必要なのか・・・・
これはズバリ申し上げて、客車なのです。
蒸気機関車列車の場合、実はこの販売座席数の枠組は何処も似たり寄ったりでして、単発便では半数以上、定型便では半数、定期便・年間60日以上の運転のものでは三割程度は鉄道会社が団体旅行用として確保して、パッケージ販売されます。
時には客車6両のうち5両が旅行商品用になったりもします。
で、単独個人一般の御客様・・・これは乗り鉄も含めてですが、その「購買意欲」を掻き立てるものは、機関車だも路線でもありません、それらを一体とした「イメージ」による効果なのです。
頭が蒸気機関車なら何でも良いのだろう、実際とある会社で蒸気機関車に気動車特急を客車代わりに使いましたら、その場でのキャンセルが・・・その後も苦情多く、担当者は胃痛の日々だったとか。
これが「認識が甘い」と致します、まぁ最たるものです。
今日、保安上の事由から自動扉・冷房付きの客車(12系)や、その改造による客車が東日本でも西日本でも、九州は先年一時運転を休止しましたが、これも50系と言う近代化客車によるものでした。
最初は目立つから良いのだそうですが、
「やはり、本物でなければダメです、御客様は誤魔化せません、リピーターを獲得しなければ、何処もSLが走っている昨今、飽きられます。だからウチは古い、でも本物の客車にこだわった」(元大井川鉄道副社長・白井氏の談を小生直接伺ったもの)
御客様がお乗りになるのは客車なのです。
そこに「本物」の、それこそ老いたる御客様には昔日の記憶が、若い御客様にはニス塗りの扇風機、至る所が木造のレトロ客車・・・・・国鉄では「在来型一般車」と呼んでおりましたが、これがむしろ「新鮮な感激」で、そこに汽笛や石炭煙の香りが「驚愕の感動」を加えるのです。
この酷く精神論的な因数が、鉄道企画経済学の方程式には何より重要なのです。
