魔法使いや魔女などの癒し手が活躍する物語は、ファンタジー小説では珍しくないどころか主流の一つだ。
一方、現代社会を舞台にしたお話となると、医療ミステリはブームらしいが整体師が主人公のお話となるとほとんどないだろう。
ちょっと興味をひかれて買ってみた小説が、思いがけず整体師が主人公だった。
なかなか興味深かったので感想をメモ。(やや辛口です 汗)
その本は、犬飼ターボという方の『チャンス』(PHP文庫)。
著者の本業はビジネス…というより、ご本人はビジネスを卒業(?)し、現在は成功を目指す人向けのセミナー開催が主なお仕事らしく、時々小説も書いているそうだ。
文章はプロ作家のレベルではないように思うが、読みにくくはない。
そのような方が、整体というものをどのようにとらえているのか興味があり、読んでみた。
ざっとこんなお話。
ビジネスで成功したいと願う二十代前半の男性が、師と仰ぐ経営者から、新規出店する整体院の院長ポストを持ちかけられる。
もともと整体には全く関心がなかった彼だが、数ヶ月の講習を受けて整体師になることを決意する。
開業後は売り上げを伸ばすため試行錯誤を重ね、客単価を伸ばすためリピーターを増やし、サプリの販売やダイエット指導にも事業を拡大する。
経営は順調でやがて別の整体師を雇用し2号店を出店、若手実業家として雑誌にも紹介されるようになる。
なぜ「整体」なのか?という私の興味は、結局はぐらかされた。
やはりこれはビジネスで成功したい人のための本で、整体についての本ではなかった。
事業を成功させるノウハウはどの業種でも共通なのだから、経営者としての資質を身につければ興味のない分野でも成功できる…というのが著者のメッセージの一つだ。
ごもっともではあるが、整体そのものについての深い考察を期待したのは無いものねだりだったようだ。
もちろん、一つの事業を軌道に乗せるまでのケーススタディとしては、いろいろ参考になる。
この小説は、著者の若い頃の実体験を元にしているという。
後書きには、著者が後にトラウマ解放のセッションを受けた結果「僕の成功の原動力は”怒り”や”復讐心”だったことが分かりました」とある。
著者が若くしてビジネスに成功したことには敬意を表する。私にはできないことなので。
しかし、怒りと復讐心に駆り立てられて成功をめざしていた整体師に施術された患者さんは、果たしてどう感じただろう。
私なら、著者の経営する整体院はたぶん直感的に避けただろう。
もし著者や主人公の手で施術されても、気持ち良いとは思えない。
施術者の心は、自分ではフタをしているつもりの部分を含め、実は全て伝わってしまっているのだから。
余談だが、気楽な一読者の立場で言わせていただくなら、
ビジネス界を舞台にした成長物語としてはやはり本田健「ユダヤ人大富豪」シリーズのほうが面白い。
整体師が活躍する小説は実は他にもあり、かつて愛読したのでついでにご紹介。
ミステリ作家近藤文恵さんのシリーズ『カナリアは眠れない』『茨姫はたたかう』。
体の声を聴く能力に恵まれたこわもて整体師の合田力先生が、
患者の体から異変を感じ取り、心ならずも事件に巻き込まれていくというお話。
施術院はビルの屋上のプレハブ、美人受付嬢も実は心を病んでいる。
腕は確かで口コミでそこそこ客は集まるものの、ビジネスとしての成功とは全く無縁。
合田先生が実在したら、是非一度診ていただきたいものだ。
探偵助手をさせられるのは遠慮しますが(笑)