ある日の午後、家のチャイムを鳴らす音が聞こえた。布団で寝ていた僕は嫌がらせとしか考えられないチャイムの連打に起き上がった。
「あー、はいはい、今開けますよ。」
寝癖のついた頭を掻きながらドアのロックをはずした。ゆっくりと重い扉を開くと、そこには大きな魚がいた。足と手が生えた大きな魚。
「やぁ、ひどいじゃないか。こんなにもチャイムを押し…バタン」
僕はゆっくりと扉を閉めた。自分はいったい何を見たのだろうか。得体の知れない生き物がそこには立っていた。
僕はもう一度扉を開いてみた。足と手が生えた大きな魚がいた。
「何で閉めちゃうんだよ。僕が話している途中…バタン」
僕はもう一度扉を閉めた。やはり、魚が喋っていた。
何が起こったんだ何が起こったんだ何が起こったんだ何が起こったんだ…。自分の声が延々とループする。僕は頭痛のする頭を抱えて混乱した。
「だ・か・ら、なんで扉を閉めちゃうのさ。」
いつのまにか扉を開けた魚が玄関に入ってきていた。僕は一瞬戸惑ったが、落ち着いて対応した。
「えーっと、君は一体何者なんだ。僕の知り合いには魚類はいないはずだけど…。」
「魚類とは失礼な! 僕にはれっきとした鯛だ。高級魚だぞ! めでたいんだぞ!」
「いや、そういう問題じゃなくて…。」
魚とは相変わらず話が噛み合っていないようだ。
「えっと、とりあえず中にどうぞ。そこにコタツがあるんで座ってください。あ、今座布団を出しますんで」
「これはこれはご丁寧に。」
魚は正座をしてコタツの中に入った。見るからに違和感のある光景だが、とりあえずは落ち着いたらしい。
「で、いったい僕に何の用でしょうか? 魚類…いや、鯛に尋ねて来られるような事は何もしてないと思うのですが。」
「あなたは何も知らないんですか? あなたの家から発せられるオーラのことを」
「オーラ?」
「そう、オーラです。私達鯛にとってそのオーラはとても迷惑なのです。」
「だから、あなたは仲間を代表して僕に抗議しにきた?」
「いや、抗議とまではいきませんがお願いにきたんです。あなた自身が気をつけばこれは済む問題なのです。」
「そ、そうなんですか…。」
魚は僕が煎れたお茶を啜りながら話した。僕はその話をなんとなく聞いていた。なんとも変な話だ。
「とりあえず私の言いたいことをわかっていただけたでしょうか?」
魚はそう言うと、僕に答えを求めてきた。
正直、まだ信じられないでいる。目の前で魚が僕に向かって話していることを。一人暮らしをするっていうのはいろんな災難が待っているんだなぁ…。
「あなたの夢をいただきます。あなたの見る夢が私達に迷惑であるオーラを発しているのです。」
「僕の夢ですか? 夜、眠ったときに見る夢を?」
「そうです。あなたの夢を私が食べます。そうするとすべてがうまくいくんです」
すると、有無を言わせぬうちに頭に噛み付いた。僕の頭は魚の口にスッポリとはまった。
「う、何をするんだ。うぅ、生臭い…。」
魚は僕の頭を何度か咀嚼した。噛まれるたびに僕の中から何かが抜けていくような感じがした。
「…うっぷ。これであなたの夢はいただきました。ご協力ありがとうございます。」
不思議と咀嚼されたはずの頭に傷はついていなかった。生臭くもない。
「こんなことであなたたちの望みが叶ってしまうのですか? これでオーラとやらはなくなるんですか?」
「わかりません。ですが、そう私たちの間では語り継がれています。それではお茶ごちそうさまでした。」
そう言うと魚は玄関の扉をゆっくりと閉めて出て行った。
僕はその日から夢を失った。彼(?)の言うように僕の夢は食べられてしまったらしい。
なんだろう、夢がないというのに違和感を感じるもののなくてもどうってことないものなんだなぁ。夜に目を閉じて、今度目を開けた時には朝になっている。それだけのことだった。
結局僕にとっての夢というものは誰かに迷惑をかけるだけのものだったのだろうか。その答えはわからないままだ。
(了)
「あー、はいはい、今開けますよ。」
寝癖のついた頭を掻きながらドアのロックをはずした。ゆっくりと重い扉を開くと、そこには大きな魚がいた。足と手が生えた大きな魚。
「やぁ、ひどいじゃないか。こんなにもチャイムを押し…バタン」
僕はゆっくりと扉を閉めた。自分はいったい何を見たのだろうか。得体の知れない生き物がそこには立っていた。
僕はもう一度扉を開いてみた。足と手が生えた大きな魚がいた。
「何で閉めちゃうんだよ。僕が話している途中…バタン」
僕はもう一度扉を閉めた。やはり、魚が喋っていた。
何が起こったんだ何が起こったんだ何が起こったんだ何が起こったんだ…。自分の声が延々とループする。僕は頭痛のする頭を抱えて混乱した。
「だ・か・ら、なんで扉を閉めちゃうのさ。」
いつのまにか扉を開けた魚が玄関に入ってきていた。僕は一瞬戸惑ったが、落ち着いて対応した。
「えーっと、君は一体何者なんだ。僕の知り合いには魚類はいないはずだけど…。」
「魚類とは失礼な! 僕にはれっきとした鯛だ。高級魚だぞ! めでたいんだぞ!」
「いや、そういう問題じゃなくて…。」
魚とは相変わらず話が噛み合っていないようだ。
「えっと、とりあえず中にどうぞ。そこにコタツがあるんで座ってください。あ、今座布団を出しますんで」
「これはこれはご丁寧に。」
魚は正座をしてコタツの中に入った。見るからに違和感のある光景だが、とりあえずは落ち着いたらしい。
「で、いったい僕に何の用でしょうか? 魚類…いや、鯛に尋ねて来られるような事は何もしてないと思うのですが。」
「あなたは何も知らないんですか? あなたの家から発せられるオーラのことを」
「オーラ?」
「そう、オーラです。私達鯛にとってそのオーラはとても迷惑なのです。」
「だから、あなたは仲間を代表して僕に抗議しにきた?」
「いや、抗議とまではいきませんがお願いにきたんです。あなた自身が気をつけばこれは済む問題なのです。」
「そ、そうなんですか…。」
魚は僕が煎れたお茶を啜りながら話した。僕はその話をなんとなく聞いていた。なんとも変な話だ。
「とりあえず私の言いたいことをわかっていただけたでしょうか?」
魚はそう言うと、僕に答えを求めてきた。
正直、まだ信じられないでいる。目の前で魚が僕に向かって話していることを。一人暮らしをするっていうのはいろんな災難が待っているんだなぁ…。
「あなたの夢をいただきます。あなたの見る夢が私達に迷惑であるオーラを発しているのです。」
「僕の夢ですか? 夜、眠ったときに見る夢を?」
「そうです。あなたの夢を私が食べます。そうするとすべてがうまくいくんです」
すると、有無を言わせぬうちに頭に噛み付いた。僕の頭は魚の口にスッポリとはまった。
「う、何をするんだ。うぅ、生臭い…。」
魚は僕の頭を何度か咀嚼した。噛まれるたびに僕の中から何かが抜けていくような感じがした。
「…うっぷ。これであなたの夢はいただきました。ご協力ありがとうございます。」
不思議と咀嚼されたはずの頭に傷はついていなかった。生臭くもない。
「こんなことであなたたちの望みが叶ってしまうのですか? これでオーラとやらはなくなるんですか?」
「わかりません。ですが、そう私たちの間では語り継がれています。それではお茶ごちそうさまでした。」
そう言うと魚は玄関の扉をゆっくりと閉めて出て行った。
僕はその日から夢を失った。彼(?)の言うように僕の夢は食べられてしまったらしい。
なんだろう、夢がないというのに違和感を感じるもののなくてもどうってことないものなんだなぁ。夜に目を閉じて、今度目を開けた時には朝になっている。それだけのことだった。
結局僕にとっての夢というものは誰かに迷惑をかけるだけのものだったのだろうか。その答えはわからないままだ。
(了)