八咫烏(ヤタガラス)と  ワタリガラス

 

何かと悪役のイメージをもつカラスですが、一方で、人々を導く

優秀なナビゲーターなどともいわれ、伝説化、神格化されたりもします。

NHKで『烏は主を選ばない』の原作漫画がTVアニメにもなりました。

 

カラスは旅の使い

 

いつだったか、通勤途中でのこと。

いつも通るお横断歩道で信号待ちをしていた頭上で、

突然カラスが鳴きだしました。奇妙な鳴き方でした。

思わず見上げると、電線で一羽のカラスがこちらを見下ろしています。
ずうっと前、

西表島で知り合った土地のおばあさんに聞いたカラスの話を思い出し、

その時の場面が鮮明に浮かび上がりました。

大きな樹々に囲まれた家の庭先でのこと。

枝にとまった一羽のカラスが、コロコロと喉を鳴らすようになきました。

その鳴き声に呼応するように、
「そうかぁ、○○は元気にしているって~」と、おばあさん。
カラスもまたコロコロと続けました。

まるで二人で会話をしているようでした。不思議がる私に、

カラスは旅の使いで、こんな風に鳴くときは、故郷を離れ異郷で暮らす

身内の無事をしらせているのだ、というような話をしてくれました。


そんな話を思い出したのは、『烏は主を選ばない』というNHKの番組予告でみた

八咫烏の強烈な印象のせいでした。

 

  謎の八咫烏(ヤタガラス)

 

八咫烏(ヤタガラス)は、日本神話に登場し、神の使い、導きの神で、

神武天皇(日本の初代天皇)の道案内をしたとされています。
神武東征の際、高皇産霊尊(たかみむすびのみこと:神の名)によって

神武天皇のもとに遣わされ、熊野国から大和国へのいわゆるナビゲーター。
和歌山県の熊野から奈良県の橿原(かしはら)までで、現在の橿原市には

天皇家ゆかりの橿原神宮があります。
日本書紀では天照大神(あまてらすおおみかみ)に遣わされたあと、

太陽の化身とも。

なんだか凄いカラスです。

勝利への象徴として日本サッカー協会のシンボルマークにもつかわれています。  
多くの伝記では一般的に三本足といわれ、古くからその絵姿が残されています。

写真:熊野那智大社の境内にある御縣彦社(みあがたひこしゃ)の

   三本足の八咫

 

  伝説上ワタリガラス

 

八咫烏が神話上のカラスに対し、ワタリガラスは実在するカラスです。

日本にいるカラスは全7種類で、ごく普通に私たちがみているのは、

真っ黒い体に大きな嘴の「ハシブトガラス」と「ハシボソガラス」です。
ワタリガラスは、世界で最も広く分布します。

日本では冬の渡り鳥として、流氷が来るころ知床などのオホーツク海沿岸に飛来し

越冬します。

それが「ワタリガラス」が和名になった由来だと言われています。
カラス属の中で最大級の大きさで、普通のカラスよりも一回りも大きく

翼を広げると100~150㎝もあります。
さまざまな神話のなかに登場し、

北米の先住民のあいだでは、神格化された多くのエピソードがあります。

世界に光をもたらした創造主で何事も可能にする、いたずら好きで、

ずる賢さも兼ね備えた手品師のような存在として位置けられています。
空に太陽・月・星があるのも、海に魚、鮭を川、食べ物を陸へ導いたのも

ワタリガラスのマジックによるもの、という伝えもあります。
旧約聖書では、ノアの箱舟で大洪水をおこしたあと、ノアがワタリガラスを放ち、

陸地を探しました。

また、アイヌや縄文の人々が島伝いに海を渡るのを先導したのも

ワタリガラスでした。

     写真:風格さえ漂うワタリガラス

 

  まとめ

 

カラスにまつわる言い伝えは世界中に多数あり、それらの多くに共通するのが

《導く者》のイメージです。
日本神話の八咫烏もやはり、人々を導く優秀なナビゲーターでした。

西表島で聞いたカラスの話は、

どのようなスチェーションで生まれ伝わってきたかは知る由もありません。

しかし何故か、いつまでも懐かしい思いにさせる光景です。
カラスは身近ゆえに見過ごしがちですが、

知れば知るほど面白く、興味は尽きません。