妻が痩せた。
妻が突然のダイエット宣言をしたのは、季節が冬から春へと移る頃だった。まずはマイクロダイエットに始まり、一人でコツコツ、様々な方法に取り組んでいた。季節は春から夏へと移り、試行錯誤の末に行き着いたダイエット法は、極めて単純明快なものだった。
「食べなければいい」
これまで一回の食事で二人前近く食べていたのを、一人前に抑えた。それも、かなり小食な人の一人前だ。おかずにボリュームのある時はご飯を減らす。一回一回の食事にこだわらず、一日をトータルで考え、カロリーを一定に押さえる。このやり方で、13キロの減量に成功した。時間はかかったが、体に負担はかけていないので、極めて健康的に思える。ダイエットを始めた当初は、食べたい物を我慢するため、かなりのストレスがかかる。本人が気づいているかどうか判らないが、イライラからくる意味不明の八つ当たりも結構あった。一番辛いのはもちろん本人なのだが、一緒に食事をする側も辛い。どこへ食事に出かけても、テーブル一杯に並んだ食べ物を楽しそうに食べていたのに、こちらもそれを見ているのが幸せだったのに、注文する品数も量も減ってしまった。「私はもう要らないから」と箸を置かれると、内心ガッカリする。それもこれも何とか痩せたいという思いからだと理解しているから文句も言えない。
自分のことを考えてみると、高校を卒業してから、一年で14キロ体重を落としたことがあった。この時は米を一切口にしなかった。といっても、大学という自由な世界を楽しみ過ぎていた時期で、不規則な生活で自然に痩せたとも考えられる。ピザやパスタは毎日のように食べていたから、炭水化物抜きダイエットとも言えない。あの年頃は、ダイエットをしなくても体重が落ちる理由はいろいろあるだろう。
現在は、食べたい時に食べたい物を食べることにしている。年齢を考えて食べる物を選ぶとか、健康のために食生活を変えるというのは嫌いだ。人間は、その時々、食べたい物も変わるし、体が受け付ける物、受け付けない物も、自ずと出てくる。体の発するそうした信号に従い、自然に食べていればいい。あんなに好きだったステーキやすき焼きも、今はそれほど食べたいと思わない。あまり好きではなかったサラダを、無性に食べたくなることもある。常に満腹感を味わっていないと落ち着かない時もあれば、空腹が気持ちのよい日もある。自分の体の求めに応じて食べる。それが人間にとって最も健康的なのではないだろうか。
現在3キロほどリバウンドしたらしいが、それでも頑張って10キロ痩せた妻は、とても美しく、とてもチャーミングだ。

