見た瞬間、「これ欲しい!」と思う物がある。
勢いで買ってしまえば「衝動買い」になるわけで、これはどう考えても大人のすることではない。ジッと我慢し、じっくり考え、次ぎに見かけた時にまだ欲しいと思ったら、買えばいい。
表参道を青山通りへ向かって歩いている時、素敵な自転車を見つけた。ピンクのタイヤに白いペダル。サドルとハンドルのグリップもピンクで、実に可愛らしい。はっきり言って自転車が好きというわけでもないし、中学を卒業して以来、自分の自転車を持ったこともない。いわば自転車は自分の中で興味の外にあるものだった。ちょっとその辺へ出かけるなら歩いてしまうし、少し距離のある所なら車に乗るか地下鉄を利用する。そんな暮らしが当たり前だから、生活の中で、自転車は必需品ではないのだ。もちろん、自転車通勤をしている人もいるし、毎日家の近くのサイクリングロードを走っている人もいるだろう。運動代わりに、週末はサイクリングに出かけるという友人もいる。しかしそれは趣味であって、無ければ困るということではない。50ccのモペットが安く手に入る時代だ、生活のために乗るなら、だれでもそちらを選ぶ。わざわざ、ハァハァ言いながら、汗まみれで坂道を登ることはない。
この自転車にときめいてしまったのは、単純に色合いが可愛い。それだけのことだ。なぜか昔から、ピンクやレモンイエローといった可愛い系の色に弱いのだ。
よく見ると、フレームに FUJI と書かれている。
富士自転車…。子供の頃、前輪の泥よけに小さなブリキの富士山をつけた、無骨な実用自転車を見た記憶がある。酒屋さんやお米屋さんの配達に使われていた。
「そうか、富士自転車か。まだ頑張っていたんだ」
可愛い色合いという以外に、この自転車に懐かしさというポイントも加算された。ポルシェだのアウディだの、高級自転車の間で頑張る富士自転車。
本気で、ちょっと欲しいかもと思ってしまった、表参道の午後だった。

