縁もゆかりもないけれど…。
近所を歩いていて見つけた、店先の貼り紙。構えと暖簾の感じから、お馴染みさん相手の小料理屋さんだろう。店主が腰を痛めたために営業出来ないということは、小さなカウンターの向こうで、店主が一人で包丁を振るい、女将さんが酒の燗をつける、そんな店ではないだろうか。休業する期間が書き直されているのは、ギリギリまで腰の痛みを我慢して働いていたことを現す。医者へ行かなくても、3日4日休めば大丈夫と思ったが、どうしても痛みが引かない。しかたなく医者へ行ったら、本人の考えたよりずっと重症だった。医者に安静を言い渡され、仕方なく、今月いっぱい休むことになった。
そんなことを勝手に想像させられる、一枚の貼り紙だ。
幸いなことに、腰を痛めたことがない。唯一20代のはじめ、一晩中座り机で原稿を書かねばならぬ状況に陥り、翌日腰を伸ばせなかった位のものだ。それも夕方には痛みが消え、普通に動いていた。腰痛というより、背中の筋肉が張ってしまっただけかも知れない。体の使い方が上手いのかどうか判らないが、引っ越しなどで重い荷物を運んでも、腰が痛むことはない。俗にいうギックリ腰とは無縁に生きてきた。
もともと子供の頃から床に座る習慣がなかったので、今も正座はおろか、あぐらもかけない。自分にとっては、腰よりその方が問題だ。腰は大丈夫なのに足が痛くなってしまう。座っていて足が痺れることは、誰でもあるだろう。しかし、痺れがくるまでひとつの態勢を維持できないから辛い。断っておくが多動症ではない。
「膝を崩してどうぞお楽に」
というのは、かしこまって正座をせず、あぐらをかいていいですよという意味だ。ところが、そのあぐらが苦痛なのだから困ってしまう。すぐに足の筋が張ってきて、スネの辺りにだるい痛みが走り出す。だるい痛みはジワジワと広がり、膝から足先までおかしな感じになってくる。このままではあちこちの筋肉がこむら返りを起こすのではないかと不安になる。あぐらも崩して横座りが出来れば、まだいいのだが、なかなかそうもいかない。例え横座りが許されたとしても、これとて長くはもたない。だから、食事に出かけて「お座敷とテーブル、どちらになさいますか」ときかれると、必ずテーブルを選ぶことになる。ひょっとしたら体のどこかに異常があり、足の神経を圧迫しているのではないかと、心配になるほどだ。
こんなことだから、料亭で芸者さんと遊ぶとか、高級割烹の店で和食を楽しむなど、一生あり得ないだろう。
縁もゆかりもないけれど、貼り紙の店主さん、どうぞお大事に。
あ、座禅も、無理だなァ…。
