日々是お気楽-nomiya


身近にありながら、足を踏み入れたことのない場所がある。


有楽町駅から晴海通りを渡り、線路沿いに日比谷へ至る道がある。帝国ホテル側からの一方通行になっている。新幹線から山手線まで、数多くのJRの電車、列車が走る高架下には、大小様々な飲食店が並ぶ。最近は洒落た店が目立ってきたが、かつてそこは、サラリーマンの天下だった。

夕方5時を過ぎれば、道路にテーブルと丸椅子が並び、焼き鳥とタバコの煙が立ちこめる。仕事を終えたサラリーマンが、同僚と、あるいはかつての学校仲間と群れ集い、酒を酌み交わすのだ。酒の肴は焼き鳥やもつ煮込みだけではない。上司の悪口、仕事への不満、社内の噂話、家庭の事情。終電まで、しばしストレスを発散する。


そのうち何年かは台場通いだったが、ほぼ40年近く有楽町の放送局で仕事をしていたから、昼も夜も、この辺りはよく歩いていた。にもかかわらず、高架下の店に入ったことは、一度もない。フリーの作家には、群れる相手もいなければ、仕事の不満をきいていくれる人間もいない。仕事上のストレスを全て自分一人で受け止めるしかないのだ。おまけに、高架下の店はサラリーマンのために存在する、ある種のコミューン化している。そこへ入り込み、ポツンと一人、飲み食い出来るはずもない。いつもここを歩きながら、コップ酒のサラリーマンを横目に見ながら、心の中で呟いたものだ。


「それでもお前らはいいよ。仕事が出来なくても給料はもらえるんだ。不満があってもボーナスはしっかり受け取るんだろ!」


銀座へ出かけた昼下がり、ちょっと回り道をして、サラリーマンのコミューンを歩いてみた。既にオープンしている店もあったが、この辺もすっかり寂れた感じがした。時代が変わり、会社の同僚や先輩と飲みに行くサラリーマンが減っているという。どうせ行くならお洒落な店という若者も多いらしい。


身近にありながら、一度も足を踏み入れたことのない場所なのに、なんなのだろう?

この懐かしさは…。


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