懐かしい物。
湯島天神の前では今、「菊まつり」が行われている。たまたま通りかかって知ったのだが、なんだか懐かしい物に出会った気がして、境内へ足を踏み入れた。思い出してみると、この季節、かつては東京のあちこちで、「菊まつり」が開かれていた。今、菊というと仏花のイメージが強い。しかし、昔は大変ポピュラーで人気があったようだ。我が家に唯一残る曾祖母の写真も、庭でたくさんの大輪の菊の花に囲まれた構図になっている。育て方によっては、植木鉢でも大きく美しい花を咲かせることで、人気があったのだろう。
まだ幼稚園へ上がる前だったと思う。祖母に手を引かれ、団子坂の菊人形を見にいった記憶がある。なにぶん遠い昔の話なので、もしかしたら団子坂ではなかったかも知れないが、僕の中では団子坂とインプットされている。
「ほら、きれいだろ?」
と言われたが、実は恐かったことを覚えている。体の部分が菊で、顔や手は人形というのが、恐かったのだ。体を花に覆われた人間が歩いてきたら、きっと誰でも恐いはずだ。自分の体に花が咲くと考えただけで恐怖を感じる。
中学へ入っていたか、まだ小学生だったか曖昧だが、父親の書棚で見つけた横溝正史の「犬神家の一族」や「獄門島」、「八つ墓村」を夢中で読んだ。その中の、恐らく「犬神家の一族」だったと思うが、殺害された女性の首が、菊人形の首とすげ替えられているという部分があった。そのページを読んだ夜は、恐くて、なかなか寝付けなかった。
今でも、菊人形は、なんとなくおどろおどろしく見えて、あまり好きではない。


