【忘れ物】
健介は、21歳カメラマン助手をしている。
高校時代から憧れていた、新進気鋭のカメラマンに
無理矢理、お願いして、弟子にしてもらった。
最初は、楽しかった、しかし、だんだん違和感を覚え始めた。
この人ってこんな人なのか。カメラ技術はトップレベルだが
人間性は最悪。最近特にイライラしている。直ぐにスタッフに当たり散らし、
ドタキャンはするし、編集者は、めちゃくちゃ焦るは、モデルは怒りだすは、
大変な日々が続いている。実際仕事の数も減ってきている。
「もうアイツも才能が枯れてきたな。俺はどうしたらいい。」
バイクを走らせながら、何か忘れ物をしたような気分になっていた。
9月の湘南の海の夕方は、人影もまばらだ。
バイクを停めて、浜に下りた。これからどうしよう。カメラマンを
諦めるか。アイツの下でカメラマンになるか。鍍金の剥がれた2流のカメラマンの
弟子では、2流以下か。自分も自分の才能に、この世界に入って、気付いた。
俺は無理か。やり直すなら今の内か。自問自答しながら歩いていたら、
何かに当たった。暗く成りかけているため、見え難い。よく見たら、女が毛布に
包まって蹲っているではないか。健介は最初ギョとした。
「おいねえちゃん。こんなところで夜更かしするのかい。」
女は顔を上げた。若い。
「お前幾つだ。」
「16」
「名前なんてーだ」
「奈美」
「こんな浜の真ん中でどうするつもりだ」
「わかんない」
「死のうと思ったけど、怖いから止めた」
「帰る家は近くか」
奈美は首をふった。どうやら家出をしてきたらしい。
「ここでは、寒いからどこかに入ろう」
バイクの後ろに乗せて近くのカフェに入った。
中は、客は一人もいなかった。
愛想の悪い店員が、早く食って帰れが見え見えの態度で
「何なさいますか」と聞いてきた。
寒かったのでメニューを見てビーフシチューとビールを頼んだ。
奈美はビーフシチューとライスを頼んだ。
店員は聞き直しもせず行ってしまった。
「なんちゅう店や。この店は」健介は独り言を言った。
健介は、奈美にいままでの経緯を聞いた。
奈美の両親は離婚し、奈美は母親と暮らしていた。
その母親が男を作って、駆け落ちをした。
仕方が無いので、姉夫婦のところへ行ったが、居心地が悪かったので家出をした。
東京へ出て来て、悪い男に捕まった。セックスとくすりの毎日だった。
男の目を盗んで逃げてきたが、途中車に乗せてもらった男に犯され、ここに捨てられた。
「なんちゅう奴らや」健介は憤慨した。
「ごめんな、俺男として奈美に謝るは」
「なんで健介が謝るの」初めて笑顔を見せた。16歳とは思えないやつれた顔だった。
「なんか分かんないけど謝りたいんや、男として」
「健介っていい人ね」奈美がまた笑った。
料理が、運ばれてきた。奈美は、何日も食べていないのか。一気に食べた。
「俺のも食えよ。」
「いいの」
「いいとも」
奈美は健介の分も食べた。お腹いっぱいになったのか人心地ついた感じだった。
「奈美、やっぱネエちゃんち帰ったほうがいいぞ」
奈美の顔が曇った。
「健介の家にいく。だめ?」
「それはおかしいでしょ。今日会ったばかりだし」
いやがる奈美をなだめすかし、なんとか姉の家に帰る事を了承させた。
姉の家までの運賃を渡し、奈美を駅まで送った。
「じゃあな。」
奈美は泣き顔だった。健介は、バイクを走らせた。ミラーには、立ったままの奈美が映っていた。
暫くして、バイクが、駅のほうに向かってきた。
奈美はまだ立ったままだった。
「俺、忘れ物取りに来た」 奈美は健介に抱きついた。
(了)
お知らせ
三重県津市近郊でレイキヒーリング、カラーセラピーに興味または受けてみたい方は
こちらのホームページへどうぞ
己書に興味のある方は、己書道場三重までTEL090-1727-0037
よろしくお願いします。