■Kevin Odegard / Silver Lining■

  「なんだ、男前じゃないか!」
  Kevin Odegard のセカンド・アルバムを見かけた時の第一印象です。 この余裕の表情を見せる男が、あのアシッド感あふれるイラストと同一人物であるとは信じがたい気がしました。 そればかりか、アルバムの内容に不安がよぎりました。 どこにでもありそうな平凡なジャケットからは、強烈な個性が全く伝わってこなかったからです。 しかし、よく見ると髭の部分だけ赤毛に染まっており、そこに彼のこだわりを見出すことも出来たのですが。

  アルバムは 1975 年に発売されました。 ネットで調べたところでは、Bob Dylan の「血の轍」のミネソタ・セッションが Sound 80 で行われたのが、1974 年 12 月 27 日と 30 日ですので、この「Silver Lining」は、ミネソタ・セッション後にレコーディングされた可能性が高いと思われます。 そのセッションには、Kevin Odegard 以外では Peter Ostroushko (mandolin)、Billy Peterson (bass)、 Gregg Inhofer (keyboards)、Bill Berg (drums) といった面々が参加しているのですが、この「Silver Lining」には誰一人として参加していません。 唯一、ベースでクレジットされている Willard O. Peterson が Billy Peterson と同一人物の可能性があるとは思っています。

  さて、アルバムは意外にもファーストと同様にサンドイッチ型のインスト小曲で構成されており、その 2 曲(「Introduction」、「Vinnie’s Tune」)にフルートで参加している Larry Ankrum が両方のアルバムに参加した唯一の人物というのも興味深い点です。 これだけ多くのミュージシャンが必要だったのかと思えるほどの人数が参加しているのですが、その中で目を引くのは、自身でもソロ作品を発表している Billy Hallquist です。 彼のソロ作品も近いうちにこのブログで取り上げたいと思っています。

  A 面は「Introduction」の美しい余韻から一転して、B 級なアメリカン・ロック「Wine, Women And Song」が鳴り始めいきなり興醒めします。 しかし、カントリー風味の「New York To North Dakota」で持ち直し、大人びた余裕が魅力のミディアム「Rock’n Roll Man」、和みのワルツ「Mary-Go-Round」と続くなかで徐々に味わいが深まります。 ラスト「Visions Of You」はボーカルにエフェクト処理を行い、ファーストに似た雰囲気の佳作に仕上がっています。
  B 面は、変拍子を駆使しながらもキャッチーなサビが耳に残る「The Middle」でスタート。 やや異色なこの曲の後には、「.44」、「Roseport 5:05」、「It Ain’t You」とメロウでリラックスした気分の曲が並びます。 これらの曲が、このアルバムのコアな部分を構成しており、Kevin Odegard の音楽的な指向性が率直に表れたものだと思います。 しかし、アルバムの代表曲はタイトル曲「Silver Lining」でしょう。 ピアノを基調としたバラードなのですが、Bruce Kurnow によるメロトロンが効果的に使用されており、憂いを帯びたメロディーと重なって、他の曲とは次元の異なる世界へと導いてくれます。 ストリングスではなく、メロトロンを敢えて選択した意図は不明ですが、この楽器に弱い自分にとっては、その儚い響きが加味されるだけで、えこひいきの対象となるのです。
  
  Kevin Odegard は結局、この「Silver Lining」以降はアルバムを残すことができませんでしたが、現在も Kevin Odegard Band として音楽活動を行っているようです。 また、Bob Dylan 通には知られていることですが、彼は 2004 年にイギリス人ジャーナリストの Andy Gill と共著で「血の轍」に関する本「A Simple Twist Of Fate」を発表しています。 今のところ、日本語訳は出ていないようですが、出しても売れないでしょう。



■Kevin Odegard / Silver Lining■

Side-1
Introduction
Wine, Women And Song
New York To North Dakota *
Rock’n Roll Man
Mary-Go-Round
Visions Of You

Side-2
The Middle
.44
Roseport 5:05
It Ain’t You
Silver Lining
Vinnie’s Tune

Produced by David Rivkin
* produced by David Zimmerman and David Rivkin
Rcorded at ASI Studios, Mpls., Minn.

Kevin Odegard : vocal, acoustic guitar, electric guitar, organ, harmonica, bells
Mark Lee : pedal steel guitar
Larry Ankrum : flute
Dan Lund : guitar
Robbie Paster : bass
Dan Bernie : drums
Bruce McCabe : piano
David Rivkin : sitar, electric guitar, 6 strings bass, 12 strings guitar, harmony vocal
Rick O’Dell : saxophone
Chico Perez : congas
Willard O.Peterson : bass
Steven Delapp : acoustic guitar
Nick Raths : acoustic guitar
Bob Rivkin : percussion
Joe Stanger : harmony vocals
Billy Hallquist : harmony vocals, guitar
Phil Berdahl drums
Jeff Brodnick : flute, fiddle
Bob Strength : drums
Chris Moon Esq. : percussion, vibra harp
Bruce Kurnow : harmonica, mellotron
Dan Lund : electric guitar
Tony Glover : harmonica
Russ Paul : dobro
James Plattes : flute
Rich Dworsky : piano, organ

ASI records ASI 209