
■Carl Brouse / American Hotel■
AOR 全盛の時代がこうしたジャケットにさせてしまったのでしょうか。 靴のウラまで見せなくてもいいのにと思うのは、Carl Brouse が 1983 年に発表した唯一のアルバム。 サンフランシスコのマイナーレーベル DTI からリリースされています。
このレコードを買った当時は、気分的に優先順位が低く、しばらく聴かずに放置してしまったのですが、一度聴いてからはその内容の充実ぶりを知り、反省したものです。 クレジットを良く見ると、興味深い面々が参加している点も、このアルバムの魅力となっています。
サウンド面で最も重要な役割を果たしているのは、アソシエイト・プロデューサーでもある Amos Garrett です。 Amos Garrett は 12 曲中 7 曲に参加しており、得意のギターやハーモニーを聴かせてくれます。 とくに A-6 の「Baton Rouge」でのギターソロはすぐに彼と分かるクセのあるプレイに、思わずにんまり。 この曲だけでも Amos Garrett ファンは注目です。 この他にも「American Hotel」での繊細なギター、ロカビリー風の「Honky Tonk Heart」での暖かいコーラスなど、アルバムの随所で存在感を示しています。
曲作りに関しては、Carl Brouse が全曲に関与しているのですが、Tom Russell との共作が 4 曲あり、ここも注目のポイントです。 Tom Russell は、老人ジャケットで SSW ファンの間では密かに有名な Hardin & Russell の片割れ。 コンビ解散後、現在も活動を続けているミュージシャンです。 彼と Carl Brouse の関係は不明ですが、演奏には一切参加していないところが不思議です。 共作のなかには、「Heart To Heart」、アコースティックな名バラード「The Dance」などアルバムの核となる楽曲が存在します。
さらに注目されるのが、デビュー前の Shawn Colvin の参加です。 彼女のデビュー作は 1989 年ですから、彼女のレコーディングとしてはかなり初期のものになるはずで、もしかすると、ファースト・レコーディングの可能性もあります。 参加しているのは「Heart To Heart」と「Taking Chances」の 2 曲。 カントリー調の前者では、Gram Parsons と Emmylou Harris のような息のあったデュエットを、情緒豊かなフォークロックの後者では、メランコリックな味わいのハーモニーを聴かせてくれます。
こうして、Amos Garett、Tom Russell そして Shawn Colvin という現役ミュージシャンを軸に、このアルバムをなぞってみましたが、やはりインパクトの強さはオープニングの 2 曲だと思います。 最初に聴いたときには意表をつかれた感のあった「Angelina」は、Jackson Browne がポップに指向したときに書き下ろしたかのような楽曲で、シングルカットしても不思議ではない出来栄え。 つづく「Slow Burnin’ Memory」はメロディーが際立って美しい見事なバラード。 アルバムのクオリティの高さは、すでにこの 2 曲で証明されてしまうのです。
しかし、この傑作を残しながらも、Carl Brouse はこのアルバムした残すことができませんでした。 彼がシーンから消えてしまった理由は知る由もありません。 おそらくは、レーベルが倒産したとか、ビジネスの世界に転進した、といったことなのでしょう。 ラスト の「American Hotel」では、フォスターの「なつかしきケンタッキーのわが家」が引用されているのですが、その郷愁あふれるメロディーを聴く度に、そんなことを考えてしまい、もどかしさだけが残されるのです。

■Carl Brouse / American Hotel■
Side-1
Angelina
Slow Burnin’ Memory
These Bars
Heart To Heart
Angel Blue
Baton Rouge
Side-2
Wise Blood
Honky Tonk Heart
Taking Chances
The Dance
The Lady And Me
American Hotel
Produced by Craig Luckin and Carl Brouse
Executive Producer : Derek Tracy
Associate Producer : Amos Garett
Carl Brouse : acoustic guitars
Paul Davis : acoustic guitar, electric guitars
Cam King : acoustic guitar
Mac Cridlin : bass guitar
Walter Collie : bass guitar
Michael Weinstein : bass guitar
John Reed : high-strung guitar
Phil Aaberg : piano
Amos Garrett : electric guitars, harmony vocals
Larry Black : electric guitars
Bobby Black : steel guitar
Chojo Jacques : fiddles
Link Davis Jr. : saxophone
Shawn Colvin : duet vocal, harmony vocals
Fred Krc : drums
Scott Matthews : drums
Kenney Johnson : drums
Linda Diamond : harmony vocals
Mary Garner : harmony vocals
Doug Corrigan : harmony vocals
Charlie Owen : harmony vocals
Bonnie Hayes : harmony vocals
DTI Records DT-3214