■Billy B. / Sings About Trees■

  正月の新聞やテレビでは毎年のように環境や資源の問題が報道されます。 ペットボトルの回収は家庭にまで浸透し、省エネや廃棄物削減などの環境活動は CSR に組み込まれ、企業の主要な役割になっています。 「アメリカが京都議定書にサインしない」という報道は多くの人が知っていて、それを「超大国の驕りだ」と反発することは簡単ですが、その真意や背後にあるものを見通す力を誰もが持ち合わせているかといえば、けしてそうではないことも事実。 個人の意向と国家の意志が相反することが世の常であることは歴史的にも明らかなので、そうした事例の一つとして片付けてしまうという手もあったりして。

  さて、2008 年の最初にピックアップした Billy B. こと Billy Brennan は、30 年以上前から子どもたちに歌とダンスの楽しさを伝えてきたミュージシャンです。 全米各地でのパフォーマンスやテレビ番組への出演を通じて、200 万人以上の子どもたちに親しまれてきたということが彼の公式サイトに掲載されています。 日本の田中星児をよりマイナーにしたような存在なのでしょう。 いまは佐藤弘道の時代ですけど。
  このアルバムは 1978 年の発表で、彼のオリジナルアルバムのなかでは、初期の作品だと思われます。 公式サイトのディスコグラフィーには CD 化されたこのアルバムも紹介されていますが、残念ながらリリース年についての記載はありませんでした。 「木について歌う」というストレートなタイトルからは Billy B. が木の成長を通じて自然環境や四季の美しさをテーマにしたことが分かります。 このアルバムには「Book Of Lyrics and Dance Instruction」と題された 28 ページものブックレットが封入されており、これがかなりの手作り感があって感心させられます。 このブックレットをめくり歌詞をたどりながらレコードを聴くのは幸せなひとときと言えるでしょう。 
  肝心のサウンドはどうかと言うと、子供向けのアルバムにありがちな幼稚なテイストや過剰な SE などが無く、大人も十分に楽しめる内容です。  「What Is A Tree?」は、Billy B. のアコギをバックにした陽気なフォーキー。 「I Am A Sprout」や「Song Of The Young Tree」と続けてほのぼのした SSW サウンドが楽しめます。 「My Roots」に至っては、スワンプ系 SSW のアルバムに入っていても違和感が無いようなブルース。  「This Bark On Me」と「Making Seeds」はソフトロック的なエッセンスを感じる佳作です。 特に後者はアシッドな浮遊感もあり、アルバムを代表する作品となっています。

  B 面の「Yummy, Yummy」では、「Song Of The Young Tree」のリプライズで♪Sunshine Energy♪というテーマが繰り返されます。  「Blow Away Baby」は風雪に耐える様を表現していることもあり、珍しく重たい気分の曲。  「The Nut Story」、「Wake Up!」は軽やかなフォーキー。 大きくなあれ!という「Grow, Trees Grow」を挟んで、「Making That Sugar」は英国ニッチポップの香りのする楽曲。 XTC にも通じる匂いでお薦めです。 大きく育った木も葉を落とす様が歌われる「It’s Autumn」がアルバムのラスト。 子ども向けの作品とは思えないほど、さりげなくフェードアウトすると北風の音でエンディングとなります。 
  このアルバムの特筆すべき点は、個々の楽曲の質も高く、チャイルディッシュに偏っていないこともあり、コンセプトを抜きにして SSW アルバムとして成立しているところです。 大人と子どもが同時に楽しめるという音楽を Billy B. は目指していたのでしょうか。 まだ、エデュテイメントという造語が無かった時代に、Billy B. の音楽とダンスを通じた教育活動はアメリカの国民にどのように受け入れられたのでしょう。 セサミストリートのような巨大ビジネスとはほど遠いパーソナルな普及活動のようにしか見えない Billy B. のキャリアが 30 年以上に渡って指示されているのは彼の志の高さによるものだと思います。 アメリカでもごく一部の人しか知らないミュージシャンに違いないのですが、こうして彼の活動と作品に触れると、アメリカという国の懐の深さを感じます。
 
 Billy B. はゴア副大統領をはじめとするアメリカでの温暖化対策運動をどのような思いで見ているのでしょうか。 僕は Billy B. のような草の根運動の気高さの前には、知名度のある人物の活動はどうもウソ臭く思えてしまいます。 それは僕が偏屈だからかもしれません。 
 そういえば、チャリティーの対象は違いますが、ひと頃盛り上がった「ホワイトリング」の活動がありました。 あの動きに賛同した多くの日本のミュージシャンはその意志を持続できているのでしょうか。



  これがブックレット

■Billy B. / Sings About Trees■

Side-1
What Is A Tree?
I Am A Sprout
Song Of The Young Tree
My Roots
This Barks On Me
Making Seeds

Side-2
Yummy, Yummy
Blow Away Baby
The Nut Story
Wake Up!
Grow, Trees Grow
Making That Sugar
It’s Autumn

All songs written by Bill Brennan

Billy B. : acoustic guitar , vocals
John Seydewotz : percussion , arrangements , execution , ma…ma…marimba
Jeff Hill : bass , arp omni , glockenspiel , harmonies , crying
Dave Kenney : twelve string saviour , saw , harmonies
Henry Nigro : electric guitar , bass , arp omni , gold teeth
Gary Whittemore : drums , percussion , amiable responsiveness
Rebeka Armstrong : harmonies , awakening those behind the glass
The Mighty Kid Chorus : Susan Mackay , Pamela Albinson , Brendan Collins
Allunday Willamore : years of support

Richard Appleman : double bass
Alan Whittemore : bass , vocal
Erick Montgomery : traps

(P)&(C) 1978 Do Dreams Music
Skrat Records