SINGING
~出会い~
僕には 特質した何かの才能もなければ
人が憧れるような素敵なものも元来持ってない
ずっと本気でそう思い続けてる
でも 今この歳になるまでに
時の流れは
僕にある程度のことを教えくれ ある程度のことなら出来るようにしてくれた
ここ数週間 空いてる時間は
いや そんな時間を少しでも創ろうとした
こんなに努力をしたのは久しぶりだった
出来なくて・・・苦しくて
いつも出来ていたことすら 出来なくなった
デッカイ部屋で ひとり 自然と涙が溢れた
大のオトナが こんなことで涙を流すなんて 恥ずかしい
よく分からない
涙が流れたことが恥ずかしかったのか
出来なくて悔しい思いがそうさせてたのか
ハンドルを握りしめ
車を走らせる その音が流れる度に
涙が流れていた
僕の口元には いつも割り箸
自然と力が入り 僕の唇は荒れに荒れ
さらには流血してしまう始末

音が全く分からなくなった
2日前に言われたひと言
”もうちょっと あっさり唄えるようにしてきて”
なんでこんな簡単なことが出来ないのか
何十時間 唄ったことか
何十時間 身体を造ったことか
何十時間 聴いたことか
2日後
シェリー話がある
第一声のそのたったのひと言 彼女の顔色が変わった
とっても貴重な1時間という限られた時間のその半分以上
僕は無駄にしてしまった
もっと厳密に言えば
技術的には無駄な時間だったのかもしれないケド
かけがえのない時間だった
大のオトナがいい歳して人前で涙をこぼすことだけは許されない
こぼれ落ちそうなそれを抑えようと
本当に必死だった
この1時間 僕は生涯忘れることはないだろう
ジョニー!!
あなた何時間唄ったの
答えられなかった
僕が発した言葉は
シェリー話がある
音が分からなくなった
今日までに あっさり唄うために練習してきた
たったのこれだけ
ひと言でも口から音を出そうものなら
僕の意図するそれとは無関係に 瞳から違うものが溢れそうだったから
”声を張り上げるのは禁止 前日のLESSONまで割り箸遣って静かに唄うこと”
いつものジョニーのままでいいんだよ
シェリー そして オファーをくれたプロのMさん
何度も僕にそう投げかけてくれた
マイクを握り締めると なぜかそれが出来ない
僕が1番苦しいのは そこなんだ
・・・
”ジョニーの負担がなければいいんだけど
・・・割愛・・・
今回のLIVEに慣れてもらってこれから
もっと一緒に歌ってくれたら嬉しいし♡”
僕が悩んでるとき いつもマメに連絡をくれるたりするコじゃない
でも 苦しくて苦しくてどうしようもないとき
ふと 何事もなかったかのように
こうして優しく僕に語りかけてくれる
その日の深夜
汗だくになって筋トレをしている僕の傍らの携帯が鳴った
シェリーだった
・・・
僕が必死になった理由
何も 『カッコイイ』 僕を見せたかったわけじゃない
ただひとつ
素人に毛すらまだ生えてないような僕に声を掛けてくれて
ステージに一緒に立ちたい
そんな彼女の名誉を守りたかった
ただそれだけ
本当にかけがえのない時間だった
こんなに努力したのは 久しぶりだった
いい歳した大のオトコが情けないけど
こんなに悔しくて涙を流したのは久しぶりだった
こんなに厳しく こんなに優しく
・・・
久しぶりだった
LIVE 終了後
僕の助手席にシェリーを乗せた
彼女のマンションの前に着き 車を停めた
いつものように僕が先に運転席を降り
外の空気に触れたと同時に声が漏れた
テールランプを横切り 助手席のドアを開けるまでに
いつもより少し時間がかかった
”ありがとうございました”
はっきり覚えてる
情けないけど 声と同時に大粒の涙が頬を伝った
初めてだった
彼女は僕をギュッと抱いて こう言ってくれた
”いいオトコが涙なんか似合わないヨ”
・・・
僕がボイストレーニングを初めた理由
一見すると道楽に思われる
確かにそうだ そして それでいい
僕には 特質した何かの才能もなければ
人が憧れるような素敵なものも 元来持っていない
それだけじゃない
コンプレックスがいくつかある
唄もそのひとつだ
”僕は上手く唄えるようになりたい”
最後に彼女にそう言った
・・・
僕は改めて心から感じることが出来た
僕って幸せなんだって
いい歳して 何かに必死に打ち込んで
さらには涙まで流せる
睡眠時間を削っても 寝る時間はある
家には数十年前に買った10Kのダンベルはあるし
今は ヨダレマミれで曲がった割り箸だって すぐに手に入る
口を切れば そこに塗れる薬だって買える
そして 何より歌を唄うことが出来る
もうこれ以上 努力出来ないと思っても
後になって思える
もっと出来たんじゃないか
僕には 僕の胸の奥にはいつも絶え間なく流れている
ひとつの川がある
僕の美学 僕の哲学
もしかしたら 他人から見たら決して美しいものじゃないかもしれない
でも はっきりと言えること
それを輝く美しいものにしてくれているのは
こうして 僕に 時に優しく温かく語りかけてくれるものがあるから
シェリー 本当にありがとう
あなたに出会えてよかった
Mさん 本当にありがとう
あなたに出会えてよかった
いつか3人でフォーチュンクッキー唄いましょ 笑
舞台はいつか僕が用意する---!!
笑
TFR
♪










































