二日目の行程 天候 晴れ
俺が目を覚ましたは、朝の木漏れ日でもなく、鳥のさえずりでもなく、小屋にトイレを使いに来た関西人のオバハンの話し声だった
トイレのドアは開けっ放しにされており、朝から小屋の中は糞尿の臭いで包まれた
最高の目覚めじゃないか
本日の目的地は縄文杉の先にある新高塚小屋だ
屋久島の森に入る人の目的は殆どが縄文杉、その次が宮之浦岳の登山
俺たちの目的はトレッキングであり森林浴でもある
縄文杉は通過点にすぎない
ちなみにこれから縄文杉を見に行こうと言う人に気をつけてほしい事がある
あくまでコースタイム上の話であるが、一番近い登山口から縄文杉までの往復は約10時間かかる
道はもちろん舗装されていないし遊歩道も途中まで
底の軟らかい靴だと結構きついと思う。道のり自体はそんなに険しくないから、登山に慣れている人はどうということは無いけど、普段山登りをしない人、特に年配の人はハイキング気分で入らないほうがいいだろう
でも最近の人の山へ対する安全意識は高いのか、ガイドをつけて登ってる人が殆どだった
ちなみにガイド料金は一人13000前後
実際のところ、道も明瞭だし危ない箇所も無いからガイドがいなくても十分行って帰ってこれると思うけど、最低限の装備、雨合羽、トレッキングシューズ、ヘッドライトに地図は持っていくべきだろう
コンパスは使い方がわからないとかえって混乱すると思うから、必要ないと思う
道に迷うなんてありえないけど、もし迷ったら戻ろうね
この日の行程も半分くらいは苔に包まれた美しい登山道をのんびりと歩いた
歩いていると森に特徴があることに気づいた
普通の山は一つのエリアに木の種類はたくさんない
特に関東の山は植林が多いから、一箇所に細い杉が固まっていたりして、風景としては飽きがくる
しかし、屋久島の森には一つのエリアに杉をはじめ何種類もの木が生えているので、歩いているだけで面白い
しかもその一つ一つが大きいのは原生林の特徴だろう
こんなトロッコ道もあって面白い
ゴールデンウィーク中はこのトロッコ道を、貨物を連結しすぎて走れなくなった列車のように人間でごった返しているのだとか・・・・
ガイドも過当競争で大変そうだな
切り株の中に小川がある
これはウィルソン株といって、縄文杉に次いで有名なスポット
切り株の中に人が入れる場所なんて屋久島以外にどれだけあるだろうか?
なぜこのような貴重な観光資源が「木」ではなく、切り株として残っているかというと
昔々、豊臣秀吉の命によりぶった切られ、京都にある方広寺建設に使われたらしい
つまり、残りの部分を見たければ、方広寺に行けという事だ
縄文杉が近づくにつれ、ガイド付きの観光客とすれ違う数が増えてきた
さすが腐っても縄文杉、平日でこれだけの人間と山ですれ違うことは中々無い
はい、これが縄文杉・・っていうかただの木だろ
現在では縄文杉の周りには、展望台が設置されていて、半径10メートル以内に近づけないようになっている
なんでも皮をはいで持って帰る奴が多いのだとか・・・・
展望台には平日でも十数人くらいの人がいて、皆一様に香水の香りを確かめるように手をパタパタさせて、パワーを頂くとか言ってたな
そんなことしてもパワーは手に入らん、筋トレでもしておれ
縄文杉は神秘的とか神々しいとか言うよりは、今夜峠の点滴の管だらけの老人にしか見えなかった
展望台が無かったら、気づかずに素通りするところだった
ちなみに縄文杉は縄文時代からあるから縄文杉と呼ばれる様になったのが起源だが、今では諸説あり、その経歴もなかなか怪しいものである
俺が推す説は、屋久島は約5000年前に一回噴火して島中溶岩で覆われたので、縄文時代からあるなんて嘘っぱちだーって説かな
まっいろいろあるので、興味ある人は自分で調べて俺に教えてください
屋久島には縄文杉だけではなく、大きな杉や形の美しい、かっこいい杉がたくさんあるから、ネームバリューにとらわれずにいろいろ見てまわるといいだろう
新高塚小屋に着いた俺は、小屋の中を覗くと人が結構いたので、テン場に移動してテントを張ることにした
次の日は雨が振るという情報を仕入れていたので、木下にテントを張りたかったんだけど、そこには既に先客のお兄さんが張ろうとしていた
俺が恨めしそうな顔で眺めていたら、ご親切にも「あした下山だからどうぞ」って譲ってくれた
なんだか人の良さそうな顔した福岡弁のお兄さん
結構人懐こくて、テントを張ったあともお隣さん同士ということもあっていろいろな話をした
年は32歳でカフェを経営してるのだとか
その話を聞いて食いついてしまった
実は俺も世界一周から帰って来たあとは、紅茶専門のカフェをやりたいなーなんて思っていたのだ
でもカフェは儲からないって。焼き鳥屋か今風の居酒屋なら間違いないと言っていたが、別に儲かりたいわけではないしな。
家族を養って、月に一回くらいの海外旅行と、釣りが好きだから、釣り用の船が買えるくらいの収入があれば十分なんだけどな
もちろんお兄さんのカフェに行くことは決まっている
福岡だから通り道だし
そのあともいろいろと助けられた
服を干す紐が欲しいと言ったら一本分けてくれ、コーヒーをおねだりして、もしかしたら食料が足らなくなるかもと言ったら余った食料を分けてくれ、挙句の果てにはライターをなくしたと騒いでいたら一本譲ってくれた
これには本当に助かった
ライターが無ければ、山で調理することは不可能だ
人がいれば借りればいいが、いなかったらアウトだ
これで福岡県に足を向けて寝ることができなくなってしまった
今後、毎晩寝るときコンパスで福岡県の方角を確かめてから寝る作業に追われることになったのは言うまでもない
夕食はクッカーでご飯を炊いて、持ち込んだ生野菜とウインナーでトッポギを作った
山では定石だが、日に日に食い物はしょぼくなっていく
今夜は存分に味わおう