監督 | 李相日 |
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脚本 | 李相日 |
原作 | 吉田修一 |
製作 | 市川南 |
出演者 | 渡辺謙 森山未來 松山ケンイチ 綾野剛 広瀬すず 佐久本宝 ピエール瀧 三浦貴大 高畑充希 原日出子 池脇千鶴 宮崎あおい 妻夫木聡 |
かなりの良作だと思います。鈍器で殴られたような衝撃を受けました。
まず、ミスリードがかなりうまい作品です。「怒」という文字を犯行現場に残す理由として、普通考えられるのは、理不尽な社会への恨みや辛みだったりします。我々はそう考えたいのです。つまり、加害者である人物が正当な怒りで犯罪を犯していると考えたいのです。物事を自分の都合の良いように考えてしまう人間の特性をうまくついた作品です。実情は極めて自己中な理由で怒りを抱き犯罪を犯した田中でした。つまり、泉がレイプされて怒りをあらわにする演技を田中は辰哉に対してしていたということになります。田中はかなりのサイコパスです。泉がレイプされて喜んでいるあたり、他人への共感能力がかなり欠如しているといえます。私は田中に対して「可哀想」と感じてしまいました。怒りを通り越した感情が、可哀想であるという憐憫の感情へと転化するのだと思います。他人に対して劣等感に苛まれていた田中が、見知らぬ主婦にお茶を渡されたことで、人間としての敗北を知り、劣等感が余計に煽られ殺したというのが今回の夫婦殺害事件の真相だと思います。かなり身勝手な理由で殺しています。自分がうまく人生をコントロールできない怒りを他人にぶつけたとも解釈できます。
本作の救いは犯人だと疑われていた田代と直人が至って普通の感覚を持っていたという点です。田代と愛子、直人と優馬、それぞれのペアが最後にお互い理解できたのが良かったです。