小野 不由美(著), 山田 章博(イラスト)

出版社:新潮社

 

5つ星のうち4.6 336個の評価

☆5

 

テーマ:過酷な環境下で生き抜くあきらめない精神を持った女性の物語

 

とても面白かった。元々、苦労話が好きな自分だから、性に合ったのかもしれない。世の中にはだます人と騙される人が存在し、陽子は騙されていた。ケイキに異界に連れてこられたり、県知事のところに連れていかれそうになったり、達姐に女郎宿に売られたりと、散々な目に合う。その影響で善意で飴をくれたかもしれない母子に対し拒絶し、治療を受けることを拒む。すごくリアルに物語を描かれている。

 

現実世界にも、いい人のふりをして近づき、裏で陰口やら嫌味を言う人もいる。だからこそ、陽子みたいに人間不信になっているせいで、善意で助けてくれる人にすら冷たく当たろうとするのは非常にわかる。だからこそ、すごく共感を持てた話であった。

 

p237の「親が子供を失くすのは、親自身が哀れなだけ」という発言には、今まで違和感で感じていたものが、取り除かれたような感覚になった。ラストシーンである陽子に対しての学校のクラスメイトや親の総評も面白かった。陽子の親も結局、他の親御さんに唆されて、陽子に対しての評価が、歪められている。たとえ身内であっても、その人自身の評価というものは状況次第で変わっていくことを知った。

 

陽子は、クラスメイトから偽善者だの八方美人だのと、いなくなった瞬間に好き放題言われている。その事実を踏まえた上で、それすら超越できるような人間になることが重要かと思われる。

 

陽子は「笑ってみたかったが、笑えない、泣きたい気もしたが、涙は枯れている」という表現が使われていた。精神が追い詰められた人間に起きる感情の平板化が起きているのであろうと考察する。

 

最後に、陽子は「もう、どうでもいいことだ。じきに全部が終わるのだから。」と投げやりな発言をして物語は終焉する。この考え方が吉とでるか、凶とでるか。下巻が見ものである。