人が生きていく意味とは~あん | Cecilia's Diary

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「聖セシリア」は、音楽の守護聖人。これにならって、音楽をはじめとする芸術や
伝統文化などを楽しみつつ、毎日を生き生きと過ごしている様子をつづります。
ライフワークとしてコーチングも勉強中。

ずっと観たかった河瀬直美監督の映画「あん」を観てきました。
この映画はドリアン助川さんの同名小説が原作です。

わけあって小さなどら焼き屋で雇われ店長として働く男、
千太郎のもとへ、アルバイト募集の張り紙を見た老婆、徳江がやってきます。
彼女の年齢では肉体労働は難しいだろうと一度は断った千太郎ですが、
徳江が置いていった手作りのあんのおいしさに驚き、
彼女にあん作りをまかせることにします。

映画の冒頭から、どら焼きの皮を焼くシーンがていねいに描写され、
スクリーンの向こうから香ばしいにおいが漂ってきそうなのに加え、
まるで大事な宝物のように小豆を扱い、ていねいにていねいに
あんに仕上げていく様子が美しい映像として描かれていて
思わずみとれてしまいます。

この映画は日本が舞台ですが、日・独・仏の合作だそうで
その映像の美しさ、なめらかさに納得です。

今まで市販の業者用のあんを使っていた千太郎のどら焼き屋は、
徳江の作ったおいしいあんのおかげで今までになく大繁盛します。

この徳江さん、実は若いころに患った病気のために
ちょっと手が不自由なのですが、そのことがあらぬうわさとなり、
大繁盛していた店も閑古鳥が鳴くように…。
そして、その原因をよくわかっている徳江は、
千太郎に手紙を書いてどらやき屋を去ります。

どらやき屋が繁盛してから糸を引くように人がこなくなるシーン、
スクリーン上では何か大きな騒ぎがおきて問題が起こるといった
場面はまったくなく、静かに変化していくのですが、
それだけにとてもせつない感じがします。

徳江が去ったあとのどら焼き屋にも変化が訪れ、
千太郎と徳江、それぞれ別の道を歩き始めます。
しばらくして、徳江がいた住まいを訪ねた千太郎に
徳江が残した手紙を渡されます。

この最後のシーンで読まれる徳江の手紙が
本当にせつなくて、悲しくて、でも精一杯彼女が
自分の人生を生きたことがわかり、胸がつまります。

現代よりもはるかに医学的な知識がなかった時代、
徳江さんのように悲しい人生を送った人たちがいたことを
テレビや新聞などで知っていますが、彼らにとっては
普通の人並みの人生を送ることさえ許されていなかったというのが、
なんとも言えない気持ちになります。

この徳江さんを樹木希林さんが、そして徳江さんと交流を交わす
中学生ワカナを希林さんの実の孫娘、内田伽羅さんが演じています。

徳江さんの背景はとても悲しいものですが、
どら焼き屋を通して千太郎さんやワカナさんと過ごしたひとときが、
きっと徳江さんにとって人生最高の時だったのではないか、
そう感じさせてくれるステキな映画でした。