そのヴァイオリンの超絶技巧的な演奏に、シューベルトやショパン、
リストなどが心酔したと言われるイタリア出身の稀代のヴァイオリニスト、
ニコロ・パガニーニの人生を絵がいた映画を観てきました。
パガニーニは超絶技巧で演奏するうえに、病弱でやせていて色黒だったために、
その風貌からも、「悪魔に魂を売ったヴァイオリニスト」だと恐れられていたそう。
この映画の原題も「Paganini:The Devil’s violinist」です。
このパガニーニ役を、21世紀のパガニーニとうわさされるヴァイオリニスト、
デイヴィット・ギャレットが演じ、すべて演奏しています。
なので、よくある音楽映画のわざとらしい演奏シーンなどはいっさいなく、
超絶技巧で演奏するシーンも、安心して観ていられました。
(実際に演奏しているので、不自然なところが一切ない)
しかも、演奏されているヴァイオリンは5億円のストラディヴァリウス!!
(残念ながらスクリーンを通すと、その美しい音がダイレクトには
伝わってきませんが…)
この映画では、パガニーニが一躍有名になるきっかけをつくった
ウルバーニという敏腕マネージャーと、女たらしだったパガニーニが
唯一、純愛を求めたというシャーロットという少女との
出会いと別れを中心に描かれています。
このウルバーニというのが、非常に冷徹な男ですが、なかなか鋭い感覚の持ち主。
いち早くパガニーニの才能を見抜き、大きなビジネスになると踏んで
彼のマネジメントを買ってでます。
しかし、このパガニーニ、自分の才能を過信しているのか、
非常に高飛車で金にうるさくて、女たらし。
ウルバーニもかなりお金にうるさいですが、当のパガニーニも
自分のコンサートチケット代をつりあげたりしてかなりの金の亡者です。
そのお金をつかってギャンブルですってしまうのですが…。
しかも、コンサートの前だというのに、ギャンブルのカタに
自分のヴァイオリンをとられてしまうという体たらく…。
しかし、自由奔放なパガニーニを野放しにさせておいて、
パガニーニの弱いところをうまーくあしらって
ウルバーニは、結果的に自分の思い通りにパガニーニを動かしてしまう。
実際にウルバーニみたいなマネージャーがいたのかどうかわかりませんが、
ズバ抜けて才能がある人たちは、えてしてこういうしっかりした
マネージャーに支えられているものです。
自分に欠けている部分、つまりマネジメント能力に長けた人と
組むことでうまくいくのですが、奔放な人にかぎって次第に
そのマネジメント能力の高さが束縛に思えてきて逃れたくなり、
ここに悲劇が起こることが往々にしてあるものです。
相変わらず奔放なパガニーニでしたら、イタリアでの評判をきいたロンドンの指揮者、
ワトソンが、イギリスにパガニーニを呼んでコンサートを開こうと企画します。
ロンドンでは、それこそ「悪魔に魂を売って超絶技巧を手に入れた」だの
「嫉妬から愛人を殺して監獄で作曲した」などととんでもないうわさが流れ、
パガニーニの到着とともに、教会の女性団体のデモ行進が。
このデモ行進が太鼓をドンドンと叩きながら、ラップのできそこないみたいな
リズムでシュプレヒコールを叫ぶのですが、
それを見ていた女性新聞記者が、「パガニーニの音楽のほうがマシね」
みたいなセリフを言っていたのがなかなkおもしろかったです。
パガニーニの洗練された超絶技巧からすると、
このデモ行進の音楽は非常にダサい感じなんです。
ロンドンにいても、相変わらず自堕落なパガニーニでしたが、
滞在したワトソン宅で彼の娘、シャーロットに出会って
彼女の純粋さにひかれていきます。
当初、シャーロットはパガニーニのことを鼻にもかけなかったのですが、
彼の美しいヴァイオリンを聴いてから、とりこになります。
そして、ロンドンでのコンサートデビューの日。
この演奏シーンは、さながら今のロックミュージシャンのライブ会場のよう。
本番直前なのに、楽屋から姿を消したパガニーニは、
なんとコンサート会場のうしろのドアから突然表れるという
サプライズ演出で、まず聴衆を熱狂させます。
そしてパガニーニが何か超絶的な演奏をするたびに、若い女性たちが
金切り声をあげ、次々の失神していくのです。
そしてコンサート終了後も、われもわれもと集まってきて
パガニーニにペタペタとはりついて離れない。
当時のパガニーニのコンサートもこんな状態だったんでしょうか。
大成功のあと、シャーロットのコンサートの成功を祝いたいのに、
ウルバーニの策略により、二人の仲は決定的に引き裂かれてしまいます。
このときのウルバーニがまた冷酷です。
自分がマネジメントしているアーティストに
なんでこんなことするんだ?と思いますが、なんとなくこれは嫉妬?
と感じました。
ウルバーニがゲイだとは思いませんが、パガニーニの才能にほれて
ある意味、金や欲、名声にまみれてお互いに汚れきっているのに、
パガニーニがそうではない純粋無垢なものにひかれたことに
さびしさと嫉妬を感じたんではないかと。
だから、ウルバーニはパガニーニにそんな純粋無垢なものに
触れる資格は自分たちにはないのだと思い知らせたかった。
そんな気がしました。
その後、シャーロットと引き裂かれたまま、パガニーニは
ウィーン、パリへと移り、なんとパリで「カジノ・パガニーニ」という
とばく場と音楽会場を兼ねた施設をつくってしまいます。
(映画の中でギャンブルに負け続けたパガニーニは、ウルバーニに
「どうやったら勝てるのか?」ときき、それに対して「自分でカジノを
持つことだ」とウルバーニが答えるシーンがあります。その結果、
パリで自分のカジノを持つという演出になっています)
しかし、最終的にウルバーニとたもとを分かつことになり、
その後のパガニーニは病気(どうも水銀中毒だったらしい)により、
最後は寂しく死んでいきます。
史実によると、あまりにも不道徳な人物ということで、教会がパガニーニの埋葬を拒否し、
死後数十年経ってやっと共同墓地に埋葬されたんだそう。
世の中を熱狂させたアーティストにしては、なんとも寂しい晩年です。
超絶技巧でヴァイオリンのパガニーニの好敵手と思われるのが、
ピアノのリスト。
彼もまた超絶技巧的なピアノ演奏で聴衆を熱狂させた人です。
でも、リストとパガニーニでは同じ超絶技巧の使い手でも
ずいぶんと違います。
もちろん、リストも女性遍歴があり、一時はスキャンダルにもなりましたが、
彼の場合は時間軸をちゃんと見定めている。
未亡人との熱愛スキャンダルによって、しばらく身を隠したりもしましたが、
それもある意味自分プロデュースの一端。
彼は自分をどうプレゼンすれば、世の中で有名になれるか
ということをちゃんと考えていたんではないかと思います。
そして、ある時期がきたら他者の助言もありましたが、(これもまた女性ですが)
ピアニストとしての演奏活動をすっぱりやめて、
後進の指導にあたったり、寄付をしたりと社会的な活動に従事しました。
でもパガニーニは恐らく刹那的に生き、自分の技術を人に教えたりすることも
ほとんどなく、孤独のままに死んでいった。
同じ超絶技巧で名をはせたアーティストでも、その生き方には
大きな差があります。
そういう意味では破天荒に生きたパガニーニのほうが
より魅力的なのかもしれません。