・・・ありがとう。


最後にリルラはそう言った。

それはリルラの本心であったと誰もが気付いていた。


冬獅郎はゆっくりと岸辺に降り立った。誰もがそこに近寄る。

皆が冬獅郎に言いたかったことを言う。

しかしそれはねぎらいの言葉ではなかった。

「隊長・・・。なんで今まで来てくれなかったんですかぁ~!!」

「そうだぜ、俺らがどんだけ苦労したのか知ってんのか!!」

「遠くで僕たちが困っているのを見てたって言ったら承知しないぞ。」

「しかもおいしい場面で来たしな。」

冬獅郎はてっきりありがとうなどと言われると思っていた。

しかしそんな期待はあっさり砕かれ・・・。

「おいてめぇら、俺が今まで何もして無かったって言いてぇんだな。」

「・・・えっ?」四人が同じ言葉を口にした。

「あのなぁ!!俺は河の上でずっと雑魚虚達を片付けてたんだよ!!

お前ら俺が100、200の虚相手にしたって知ってて言ってんのか!?」

「・・・・・・。」四人が黙り込んでしまった。

「あぁそうかよ。だったら俺はもう帰るからな。後始末はてめぇらでやれ。」

そうして冬獅郎が立ち去ろうとした時、声を掛けられた。

「冬獅郎!!帰るって死神の世界にか?」

冬獅郎は夏梨に現世へ来たとき、大切な幼馴染にお土産を買うと言っていた。

しかし途中で虚を感じたと言ってまだお土産は買っていない。

「そうだな、雛森のお土産を買ったらそろそろ帰るか・・・。」

「だったら今から行こう!!いいお店あったから。」

夏梨はあと少ししか居られないと知り焦っていた。



大きな氷がいくつも河へ落ちていく。

身体がどんどん失われていく。

自分がどんどん消えていく。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!まだ私は消えない!!」

自分の身体を再構築させようとする。

・・・分かっている、そんなことは無理だと。

水の自分だったら再構築なんて容易いこと。

しかし自分は今・・・氷なのだ。液体ではなく固体。

そんなことを思っているうちにもう胴体はほとんど落ちてしまった。

後は顔だけ・・・。命の最後を感じた。

最後に自分を倒した奴の顔を見る。

その顔には一片の感情も残さず、ただ自分を見つめていた。

あぁ自分もこれで終わりか・・・。

・・・なぜだろう。そこまで気分が悪いわけではない。

むしろ・・・なんだか開放された気分だ。

殺さなくては生きていけない宿命。

他者の犠牲の上に自分が立っている気持ち。

良くなんかない。私はずっと嘆いていたじゃないか。

こんな命を持ったことに。こんな道を歩んでいく事に。

「最後の最後にこんな事言いたくは無いけど・・・」


・・・・・ありがとう。





そこに立っていた少年は夏梨がよく知っている少年・・・。

「とう・・・しろう・・・。」

「大丈夫か、夏梨。」

聞き覚えのある声はまさしく冬獅郎の声だった。

「あれ・・・冬獅郎か?」

「当たり前・・・じゃない。隊長以外の・・・誰にみえるのよ・・・。」

隣で安心した顔の乱菊が言った。

しかし声は震えたような声だった。

「しかしいいシーンで彼も姿を現すものだな。」

雨竜も茶渡も安堵の表情だ。

「おい、松本。今の状況を簡単に説明しろ。」

冬獅郎の凛とした声が河川敷に広がる。

「はい、実は・・・。」

簡単に正確に乱菊は冬獅郎に説明した。


「なるほどな。状況は大体分かった。」

冬獅郎は刀を構える

矛先は・・・リルラへ。

リルラはすこし怯えたような表情だ。

「俺は今、あんまり機嫌良くねぇんだ。一発で終わらせるぞ。」

「ふふっ、望むところよ。さぁかかってきなさい!!」

二人は同時に攻撃を繰り出す。

そして少し間があった後、大きな水しぶきの音がした。