アパートから離れ、2人はある場所に来ていた。
「えぬくん、映画なんて見る場合じゃないと思うんだけど(汗)」
「まぁーまぁー、非常に興味深いと思うんだ。」
えぬるぎは、あれから現実に起こっている事例がないか、また関連する事がないかを手当たり次第に調べていた。
だが、どれも不明確であり、確信めいたものは見つからないものの、調べた数ある事を元に不明確ではあるものの仮定を立てれる状態にはなっていた。
また、ネットの方では何故かやたらこのアニメの映画のことが出てくる。
「何かしら、ヒントになることもあるかも知れないから。ちょっと見てみよう。」
映画が上映され、えぬるぎに吊られるように、みるくも知らず知らずのうちに見入っていた。
みるくは考えていた。今起こっている状況に確かにあてはめれる部分もあるような気もする。
そして、昨日耳にしているある言葉を思い出す。
「ねー、あの占い師・・シタさんだっけ?確か世界線って言ってたよね?
あと・・・観測者とも書いてあった。」
「そうなんだよ、とりあえずシタさんに会いに行ってみようか。何か分かるかもしれない。」
2人は映画館を出て、占い師シタが居た場所へと急いだ。
「いない・・・ね。」
時計を見れば16時を過ぎたところ。
「夜だけなのかな・・・どうする、えぬくん?」
みるくは、えぬるぎを頼りきっていた。
一人じゃ何もできないと痛感している。
「とりあえず、2人で話せるところに行こうか?そうだな・・・」
「うち、そんなに遠くないから来る?」
「え?みるちゃんとこ?いいの?」
「2人だけで話せるでしょ?・・・何も変なこと考えなくていいよ(汗)」
「そりゃ・・・色々と(爆)」
いつもの悪いえぬるぎが顔を出し、自然と笑みが漏れる。
「とにかく、行こう。えぬくんだけが頼りなんだから。」
2人は、みるくの部屋に場所を移した。
興味津々で舐めまわすようにえぬるぎは部屋を見回している。
「えぬくん、どうでもいいけどあまりじろじろ部屋見ないでよ(汗)」
「そりゃ、興味あるって。みるちゃんの部屋だよ。」
「もーぅ・・・私どうすればいい?これから。」
悪いえぬるぎが顔を出したままで話が一向に進まないので、みるくから切り出す。
その言葉で、ようやくえぬるぎの顔が一変する。
「みるちゃん・・・とりあえず昨日俺が言ってることは理解できてるよな?」
「うん、私とアルくんが邪魔なんだよね?もう一人の自分とアルくんは。」
「そう。確認するけど、みるちゃんはアルっちと普段話すっけ?」
「全然だよ。数回話したことがあるくらい。」
「なら尚更分かりやすくていいかな。
ここからは、俺の想像にすぎないけど。
もう一人のアルっちは、みるちゃんに何かしら理由をつけて近づいて来ると思う。
その時はもう一人のアルっちと思った方が良い。ただ絶対悟られないように。
普段通りにね。難しいとは思うけど。」
「うん・・・何とかなると思う。」
「2人で行動しなければならない状況に仕向けられるかもしれない。
その時は絶対俺に連絡を入れて。」
「うん、でも付いていかなければ大丈夫だよね?」
「それは、あちらも考えているとは思うから。そうせざる得ない状況が作られるかもしれないし。
とにかく俺に連絡を入れて。上手く断れるなら付いていかないにこしたことはないし。」
「分かった。ちゃんと心がけておくね。何かあったら絶対えぬくんに連絡を入れるから。」
「うん、ただ極力俺みるちゃんから離れないようにはするつもりだけど。」
えぬるぎの私に対する想いがヒシヒシと感じ取れる。
お調子者と勝手に決め付けてしまってた自分をこの時ばかりは責めている。
「あと、みるちゃん次第になるけど。」
「うん?」
「やっぱり、みるちゃんが一人になるところを狙ってくると思う。
仮定の話になるけど、もう一人のみるちゃんは多分ここを知っていると思う。
鍵を持っててもおかしくないと思うんだ。・・・今日からでもいいし、うちに来る?」
「・・・え?」
「俺んとこ部屋2つあるから変な心配はしなくていいし、大丈夫。真剣にね、心配なんだ正直。
なにより、みるちゃん俺の住んでる所知らないでしょ?アルっちも当然知らない。」
「うん、知らない。」
「となると、あの2人も俺の住んでる所は知らないと思うんだ。」
もう一人の私が思い浮かぶ。
怖い・・・
部屋のドアを開けたら、もう一人の私が当たり前のように立っているかもしれない。
心のどこかで、そういう恐怖心が消えず、えぬくんに知らず知らず誘っていたのもある。
そして、それを見抜いているように、えぬくんは助け船を出してくれている。
「甘えて・・・いいかな?
昨日より、本当怖いんだ・・・もう一人の私を見てから。
えぬくんの言うように、この部屋を知ってても当たり前だし、鍵を持っててもおかしくないもんね・・・」
「よかった。とりあえず、必要なものまとめて、用意できたら俺ん所行こうか。
シタさんところはその後で。」
「分かった。ごめんね色々と。」
「あと、今日みるちゃんの態度を見てて確信したんだけど、明日、今起こってることのある程度はアルっちに話しておこうと思う。どの辺まで言うかは俺に任せてくれるかな?」
「そうだね、私もその方が良いと思う。」
2人は、水面下で今出来る最善の対策を着実に行っていた。
眠い・・・気は張っているが、疲れもあるのだろう。流石に精神的に限界が来ているのが分かる。
昨日、もう一人の俺を・・・みるくは実行した。
あっけなかった。
人を殺める怖さもあったが、それよりも何の抵抗もできないまま人は簡単に死ぬんだとアルは思った。
みるくから連絡を受けた後、もしもの為にとレンタカーを借りていた。
2人で、アパートから離れた山林に向かい、誰にも気づかれることなく自分を埋めた。
これが、もし今後誰かに発見されたところで誰かすら分からないままであろう。
・・・俺がいる限りは。
そこから、みるくをアパートで降ろし、アルの部屋に移った。
みるくには、万が一があるとまずいこともあり、こちらで既成事実のある優茶との件を済ませてから来てもらうことにしている。
とにかく事は慎重に行うべきである。
そして、眠ることも出来ないまま、こちらのアルになりきり出勤して、何事もなく夕方になろうとしていた。
大丈夫、やはり誰にも勘ぐられることはなさそうだ。
出来れば、今日のうちに こちらのみるくに接触したかったが、仕方ない。
とりあえず今日は体を休めよう。帰りにみるくに会ってから・・・休もう。
アルは、いくら慎重になったところで
えぬるぎの日に日に大きくなる存在感に全く気付いていない。
つづく