新約 とある魔術の禁書目録(17)  鎌池 和馬 感想 『別シリーズのが良かったのかも』 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 今巻、上条さんの呼びかけもあり、吹っ切れた覚悟を見せてくれた府蘭、魔神に問いかけられ、初めて拙い本心を吐露した上里など、結構心に迫るシーンはあったんですが、あまり上条さんがその流れに噛んでいる感じはしません。
 上里と取り巻きズ達は別のシリーズを作った方が良かったかもしれません。その場合、表面的に見れば手段を選ばない集団にしか見えない彼らがメインでは人気が出なかったかもしれませんが。ただ、今回情けない本心を晒した上里は自分はそんなに嫌いではありません。

 自分はそもそも大上段で正論を叫ぶ上条当麻というキャラがそんなに好きではないので、今巻もそこそこ楽しめました。が、Amazonレビューを見ていると、ライトノベルファンには主人公が格好良く活躍しているのが大好きな人が多いようなので、今巻はきっと物足りないでしょう。上条さんの活躍が云々というより、上条さんが中心になれるストーリーラインではないのです。

 この巻にはカタルシスが弱いという致命的な弱点があります。ボスっぽく状況を支配していた木原唯一を上条さんが男女平等パンチでぶっ飛ばす的、テンプレ王道もないし。

 あと、改めて思ったんですが、鎌池和馬はラブコメ……というか、恋愛を描く才能が絶無だと思いました。
 この巻の主軸は、自分がどのような罰を受けるとしても構わないから、と身を呈して上里の救出を望む府蘭と、戦場でしか活かせない才能を持ちながら日常を羨む上里の二人だと思うのですが、その二人の感情の吐露をあれだけ描いておきながら、どうして上里の帰還と府蘭との再会を描かなかったのか不思議でなりません。あれだけ取り巻きズの内戦カーチェイスは尺を取って描くのに、少年の帰還とか少年少女の再会をカットしたり描かなかったりってアリですか。クライマックスシーンだけカットしたアクション映画みたいな感じです。物語の転がし方とか、色々都合はあるのかもしれませんが、恋愛とか男女間の心の昂りの描写から逃げているような印象すら受け、そして逃げている意識すらないのであれば、やはりその方面の才能は欠如しているのではないかと思わずにはいられません。恋愛とはある人物に対する好意や執着なのかもしれませんが、そういった感覚の欠如が延々と使い捨てのような新キャラを出し続け、既存キャラを上手く活かせないという現行の展開にも繋がっているような。自分の作るキャラクター達をもうちょっと大事にして欲しいです。

 

新約 とある魔術の禁書目録(17) (電撃文庫)