永遠に完成しないめどみちゃんの、 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

永遠に完成しないめどみちゃんの、

 放課後、私が美術部の部室である美術室の扉を開けると、そこには部長が一人で佇んでいました。
 ――いいえ、正確には部長の前にめどみちゃんが並べられていました。
「部長、こんにちは」
「ああ、君か。すまない、今日のめどみちゃんはもう使ってしまったんだよ」
 まあ、めどみちゃんを使うのなんて、部長くらいなんですけれど。
「今日の首尾はいかがですか?」
「ふむ。君はどう思うね?」
 私は改めて、美術室の机を寄せて作られた寝台の上に並べられためどみちゃんに目を向けました。めどみちゃんは美術部の備品の人間です。
 めどみちゃんは全裸に剥かれていました。自然と私の目はめどみちゃんの胸に向いていました。相変わらず綺麗な乳首をしています。
 取り合えず胴体は仰向けになっていて、胸の少し下を手で隠すように、腕はバッテンの形で交差しています。指先は全て切断されており、五つずつ両肩の横に並べられていました。
 足は水泳のバタ足をする時のようにピンと伸ばされており、やはり足の指先も切断され、左右のお尻の脇に並べられていました。私はまじまじとめどみちゃんの性器を観察しました。今日も綺麗なピンク色をしています。
 部長が悪戯げな声をかけてきました。
「君はめどみちゃんの性感帯を観察するのが好きだねえ」
 せ、性感帯って……いや確かに乳首を見ていたのも事実ですが。
「同じ女子として色々気になっちゃうんですよ!!」
 勢いづいて言い訳する私です。ぜんぜん全く関係ないですけれど、部長はやっぱり綺麗な色をしている方がいいんですかねっ、とか思ったりしちゃったり。
 ……こほん。
 ともあれ今日のめどみちゃん鑑賞に戻るといたしましょうか。
 めどみちゃんアートとしては重要な部位である頭部ですが、今回は首から上が切断され、首だけで机の上に立っていました。丁度、首の切断面の方を、めどみちゃんの顔が向いています。その目は閉じられていました。そして、めどみちゃんの長い髪は、ばさあ、と周囲に広がっていました。見方によっては、めどみちゃんの首が単体で、クラゲのような新種の生物になったようにも見えます。髪に覆われて切断面は見えませんが、指と同じ小物的にめどみちゃんの耳は切り取られており、頭の上に乗せられ、髪飾りの役割を果たしていました。
「……どうだね?」
 私には答えようがありませんでした。めどみちゃんアートはやはり部長の芸術であり、その良し悪しは私にはよくわからないのです。いつものことでした。
「やっぱり私には、部長がご自分でどう感じるかが重要なのだと思いますよ」
「そうか、そうだな……うーむ」
 部長は顎に手を当てて、深い思考の海に溺れていきました。

 しばらく前から、私は部長の悩みは尽きることがないだろうな、と気付いていました。美術部の備品であるめどみちゃんは普段は物言わぬ人間であり、その身体をどのようにバラして飾りつけるのも思いのままです。しかし、めどみちゃんはあくまで練習用の人間なのです。そこに根が深い問題があると私は感じていました。
 めどみちゃんを使えるのは一日一度なのですけれど、逆にどんなにバラバラにしても一夜明ければめどみちゃんは五体満足な物言わぬ人間に戻ってしまうのです。
 それこそが問題でした。
 つまり、めどみちゃんは芸術作品にしてもその状態で保存が出来ないのです。そのため、部長はいつまで経ってもよりよいめどみちゃんアートを求め続けてしまうのです。成功だろうが失敗だろうが、一度完成させてしまえば部長もめどみちゃんに諦めがつくでしょうに、めどみちゃんが永遠に完成しないばっかりに。

 私は近々、部長に告白するつもりでいます。どうか、めどみちゃんの代わりに、私を使ってくださいと。めどみちゃんと違い、ぶっつけ本番で、一度きりの生命ですけれど、部長には私を完成させて欲しいのです。
 いざ、制作が始まれば、めどみちゃんと違って私は泣き喚くでしょうし、乳首もあんなに綺麗じゃないし、性器もあそこまでピンク色ではないです。フラれる可能性だっでありますけれど、私だってめどみちゃんに負けてられない、そう思うんですよね。
 だからその時は、どうかよろしくおねがいしますね、部長。