クズの本懐第三巻に読む、限定的コミュニティへの視野狭窄。 | 墜落症候群

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Amazon:クズの本懐(3) (ビッグガンガンコミックス)

クズの本懐(3) (ビッグガンガンコミックス) [コミック]
横槍 メンゴ (著)
5つ星のうち 4.8 レビューをすべて見る (4件のカスタマーレビュー)
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商品の説明
内容紹介
“契約上の恋人"という関係を、人知れず続けていた花火と麦。しかし、絵鳩の告白によりついに花火は偽りの関係を打ち明けてしまう。そんな年若い彼らに、茜は何を思うのか――。それぞれの恋心が、想いを、身体を、縛り付けていく。絡まった赤い糸は解けない、純粋で歪んだ純愛ストーリー、第3巻。
登録情報
コミック: 180ページ
出版社: スクウェア・エニックス (2014/4/25)
言語: 日本語
ISBN-10: 475754264X
ISBN-13: 978-4757542648
発売日: 2014/4/25
商品パッケージの寸法: 18.2 x 12.8 x 2 cm
おすすめ度: 5つ星のうち 4.8 レビューをすべて見る (4件のカスタマーレビュー)
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321位 ─ 本 > コミック・ラノベ・BL > コミック

 要するにこの漫画は、元家庭教師であり音楽の教師の女の人(茜)を好きな男子(麦)と、小さい頃から兄のような関係性にあり、高校の国語教師でもある男の人(鳴海)を好きな女子(花火)が、その想いはまだ届かないからと欲求不満(?)のはけ口としての代替的な恋人関係を作る話である。
 そして、お互いが好きな教師同士がなんだか恋仲になりそうな感じも醸し出している。代替的な恋人関係なんか作ったら、本命に告白しにくくなっちまうじゃないか、という当然の突っ込みを思い付いたんだけれど、ちょっと一巻と二巻が今手元にないので、どうして、そうした経緯になったのかはよくわからない。よくわからないが思春期のよくわからない衝動とか、そういう類の何かなんだろう。
 キスやエロティックな行為の際に(本番はしないみたいな約束もしているんだけれど)、その口や手を、実際の相手ではなくて好きな人のもののように妄想する、お互いでお互いを慰め合うというか、騙し合うというか、そういう捻くれた関係を称してクズと言っているのだろうけれど、Amazonレビュー第三巻のものを見る限り、一、二巻ではクズ度は低かったんだそうだ。名前負けというか。
 んで、今回、クズそのものといったキャラクターが登場する。登場するというか本性が晒されるのである。それは麦の好きな人である音楽教師の茜で、彼女は他の女の子が好きな男の子の行為が自分に向けられることに価値を見出すタイプで、しかもその男の子に対して、好意を持つことはない、ということが明かされる。
 なんか、俺はこのキャラクターを見て、何となくカゲプロを思い出した。
 俺が例えば、このキャラクター造形に対して、カゲプロに似ていると言う時に、それはいわゆる『カゲプロのパクリ』という言葉のような底の浅いものを秘めて言う訳ではない。
 俺はその作者のバックボーンにかなり着目するタイプなんだけれど、この横槍メンゴさんという人はボーカロイドのPVイラスト等も担当する人で、ネットと親和性が強いタイプというか、このクズの本懐という漫画も、どうも、リアリティを追い求めているというよりは、あるのかどうかもわからないツイッター的な関係というか、そういう微妙なニュアンスの上に成り立っているように思うのである。何ていうか、それが「ありえるか」「リアリティがあるか」っていうのよりは、ある特別な関係性への妄想が先行して、作品が作られる感じ。リアリティありきで考える漫画家の場合は、そもそもお互いに好きな人がいるのに、代替的な恋人関係を築く、という繊細な(あるいはあやふやな)設定をまず考えつかないだろうと思う。
 表現がポエティックで、しっかりとした世界観や設定重視というよりは、感性、その時に感じた気持ちが象徴的に物語を推移させるというニュアンスでは、やはりボカロに近いものを感じさせるところがある。
 具体的なイベントよりも、生々しい、その時々の気持ちそのものが、この漫画を読ませるものにしている、というか。そういう意味で、僕はこの作品に、何となくツイッターやボーカロイドのような系統・雰囲気を感じ取るのだ。このように、僕はその作品の内容と共に、その作者がどのような作品群に慣れ親しみ、どのようなこれまでの表現経緯を辿ってきたか、という視点による、その作品が帯びる雰囲気、あるいは系統をかなり重んじた上で、読書をしているとは思う。
 こういうのはあくまで感性的な捉え方なので、人に説明することも難しいし、大体、一人で自己完結してしまうのだけれど……。
 んで、話を戻して、女教師、茜のキャラクターがカゲプロに似た感じを受けた理由としては、勿論、ツイッターやボーカロイドのような系統が似ているというのがまずその理由だけれど(実際にじんさんが今回の帯を書いているし)、身近に存在する黒幕というか、キャラクター設定の時点で、黒い歪みを付加された人物ということが言えるかもしれない。設定上はただの女教師で、いわゆる異能力バトルもののように、特殊な能力がある訳でもないし、あるいは特別な権力を与えられている訳でもない。じゃあ、何が彼女をラスボスっぽく見せているかと言えば、単純に『心情』なんだよね。その心が歪んで成立しているからこそ、キャラが立っている。そしてその歪み方が、ある狭い人間関係においてのみ有効な、相手を謀り、心を傷付けることに喜びを見出すような黒さであることが、何ていうかインターネット的だと思う。あくまで、目の前の人間だけを害するというか……彼女にとっては、大多数の人間から、特別視されることなどは問題ではなくて、ただ目の前の女の子から、男を奪えればそれでいいのだというような……その視野狭窄こそが、逆にクズっぽい感じを増させているように俺は思った。
 何ていうか、進んだ作品群において、もはや世界に通用したり、世界を支配するような大きな才能みたいなのってもう必要ないのかもしれない。ただひたすらに目の前の相手を屈服させ、騙し、心を裏切ればそれで充分、悪役として成り立ってしまう。その関係への視野狭窄はカゲプロにも見られる。マリーの能力は世界全体をループさせ巻き込んでいるのだから、世界規模の問題だが、それじゃあ、政府が動くかと言ったらまるでそういう話にはならない。カゲプロは数人に限定された問題である。
 だからこそリアリティがなく大作感もない、と感じるのは古い人間であり、だからこそいいって言っているのが昨今ますます限定的なコミュニティの関わり方に楽しみを見出す若者の在り方なのかもしれない、とふと思った。