カゲプロ想像小説リライト。第48話。『運命の相手』の悪魔の証明。 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 第48話。『運命の相手』の悪魔の証明。



「次は僕『たち』が相手だ」

 そう言って、アウロラの前に手と手を取り歩み出たのはヒビヤとヒヨリだった。アウロラには理解できない圧迫感があるが、しかし2人なら怖くても立ち向かえる。

「あら。なかなか小さいのに勇ましいのね」

「ちっさい言うな!」

「簡単に相手のペースに巻き込まれないでよ……」

 呆れたように言うヒヨリに、ヒビヤは「うんまあ……」とそっぽを向き頬を掻いた。

「だけど、姿はこんなでも、僕たちが何を経験してきたかなんて、アウロラ、お前はとっくのとうにお見通しなんだろう?」

「そうね――勿論そうよ。そうか、なるほど、そういう側面もあるのか――あなた達は問答を重ねることによって、私の本質に問いかけによって迫ると同時に、私自身からも情報を引き出そうとしているのね?」

 意図が読まれたことにコノハは軽く歯噛みするが、しかし、そこまで読まれるのは想定の範囲内だ。

 というよりも――『全ての意図を読まれた』としても、コノハが立案しキドが決着を付けるこの『作戦』が実を結べば、それだけで『メカクシ団』には勝利と言える。この『作戦』の目的は、あくまでアウロラの打倒では、ないのだから。むしろ、アウロラには今、生命乞いをしているに近い状況と言えるだろう――しかし「助けてください」と言っても100%それには応じないのがアウロラだ。彼女が応じるに値するドラマを、『メカクシ団』は提供する必要がある。そして、そのドラマはアウロラに媚びるものではなく、むしろアウロラと拮抗し、強くその存在を揺さぶるものでなくてはならない。

 当然、ヒビヤもアウロラの発言の意味には気付いたが、むしろ挑発的にこう言った。

「勿論、その側面はあるよ。僕たちはお前のことを1つも知りゃしないんだからな。でも、それは情報を引き出すに終わらない――むしろ、アウロラ、お前から引き出された情報を元に、僕たちはお前が知らないお前を、幾度でも突きつけてやる。

 これはその為の『団体戦』だ」

「なるほどね。まあ確かに1人1人を折っていくのではあまりにも歯応えがない。全てが無駄になるかもしれない奮闘を精々期待してるわ」

 アウロラはそこで一旦言葉を切り、ヒビヤを見つめた。

「それで? あなたは一体どんな問いかけを私にしてくれると言うのかしら?」

「あなたではなくてあなた『たち』と言うべきね」

 とヒヨリが応え、更にアウロラに対する問いかけを発した。

「あなたは自分にも自覚出来ない『運命の相手』を助けようとして、人間の『運命』を操っているんじゃないかしら?」

「あっははははは!」

 アウロラは哄笑した。

「それはなかなか愉快な仮定ね。『運命の相手』っていうのは要するに恋人だとか親友だとか夫だとか、本当にごく親しい相手を指すって考えて相違ないのね?」

「――ああ」

 ヒビヤが答える。

「そして、先ほどのマリーちゃんと設問の由来が変わらないのね。きっとその問いかけは『可能性世界』での、あなたたちの悪夢から来ているのでしょうから」

「まあ、基本的にそこだけは変わらないと想うぜ? マリーさんが言ったように、確かに人間は自分の人生の経験から、本当に大切なものは汲み取っていくしかないんだし、それこそが相手の根幹を揺さぶる問いかけに繋がると、僕も信じる」

「だけれど、その問いかけについてはマリーちゃんよりも荒唐無稽だと言い切れる。私には、そんな相手なんて存在しない」

 ヒヨリは、そこで何故か笑った。

「その『記憶』を、あなたが失っているとしたら?」

「――え?」

 ヒビヤがバカにするように挑発的にやれやれと手を軽く手を広げてみせた。

「人間の知識、『物語』の典型というのを少しは頭に入れておくべきだったな。『運命の相手』と深く結び付いていたのが、何者かによって、引き離され、謀略により当時の記憶を失っているなんていうのはありきたりな『設定』だよ。

 もう1つ例を上げるとすれば、死によって引き離され――『輪廻転生』によって、前世の記憶を失っているとかな」

「『物語』と『現実』を混同しないでくれるかしら? しかも、それでは『記憶』を失った私が、どうして『運命の相手』を求められるっていうの?」

「さあな? でも人間にだって無意識があるように、『運命の女神』にだって自分でも把握出来てない意識の領域が存在しているんじゃないか? そして、それこそ人間の人生がお前にいじられるように―ーお前の行動だって更に何かしらの『運命』に突き動かされてのことじゃないとは言い切れないだろ?」

「更に言うのならば――『運命の相手』の存在を、否定することはあなたには出来ないのよ、アウロラ。

 『悪魔の証明』。悪魔がいないことを、誰も証明することは出来ない。だって、結局のところ、その誰かが知らない領域に悪魔は潜んでいるかもしれないんだから。ある意味では『悪魔の存在』っていうのは『悪魔がいるかもしれない可能性』そのものなんだから。あなたは『可能性の提示』に否定の断定を加えることは出来ないはずでしょう? だってあなた自身が、本来はないはずだった『可能性』を、『運命』を書き換えることによって『創造』している――その張本人なのだから」

「『可能性世界』での『陽炎によるループ』……あの悲劇から、こんな荒唐無稽な発想が生み出されたとでもいうの……!」

「いや、今話していて想い付いたんだけどさ、あの悲劇はもっと分かりやすい形で希望を生み出してもいたんだよ」

「どういうこと? ヒビヤ」

 ヒヨリも不思議そうに首を傾げた。

「僕も君も、あの『ループ』の最中では抗うことに必死だったけどさ、同様に、あの終わらない夏休みを必死に満喫しようともしてたじゃんか。

 どうしようもなく苦しいから、何とかして、あの日々を末尾は同じでも、その過程を変えようと必死に考えて抗って、そして結構、僕はヒヨリとの2人っきりのあの日々が、最低だったはずなのに、楽しかったんだよ」

「ヒビヤ……」

「そういう風に、悲劇が繰り返されるからこそ、何度でも挑み続ける僕たちみたいなのも登場して、だから、悲劇があるところには希望もあるんじゃないか」

「何で普段はヘタレなのに、こういう時は格好良いの……?」

「うっさいな!」

 勢いと調子に乗るヒビヤにすかさず水を差してくる幼馴染に突っ込みを入れてから、再びヒビヤはアウロラに向き直った。

「そして、アウロラ、僕はもう1つの予知めいた想像を披露しよう。それをお前が妄想と嘲っても構わない。

 ヘッドノックの爆発からどうしても逃れられない悲劇が存在した。

 そして、それに応じるように発生した、僕たち『メカクシ団』と『運命の女神』アウロラ――お前との邂逅は、本当は希望だということを最初から決定づけられているという仮定を、僕はしてやる。

 そしてそれこそが――『運命』なのだと」

「『運命の女神』に対して、『運命』を語る、それは凄まじい冒涜と言えるわ……ゾクゾクするくらいに面白いわね。いっそ皆殺しにしてあげましょうか?」

「遠慮しとく……もうちょっと歓談を楽しめよ。それに『運命』を操れるなら、僕たちにもっとひどいことだって出来るんだろ? まずは最後までこの対話で揺さぶられて面白がってろよ。きっとなかなか出来ない経験だからさ。

 そして、もう1つ分かったことがある。

 アウロラ、お前は『運命』を操るが、『運命』を全て読み切れる訳じゃない。だからこうした『メカクシ団』の乱入というイベントが起こり得るし、今のように予期しない言葉をぶつけられることもある。

 お前は全てを知っている訳じゃないんだ」

「……まあご名答と言っておきましょう。皆殺しなんて冗談よ。放っとけば爆死するところ見られるしね」

「その通りね……」

 流石にヒヨリは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「加えて、あなたたちの問いかけにも答えましょう。

 確かに私には『運命の相手』がいるという『悪魔の証明』を崩すことは出来ないけれど、しかし、今は私を納得させなければ全ての言葉に意味はないと言える。『運命の相手』がいないという証明は不可能だけれど、しかし実在を示す証拠は何1つ存在しないのなら、私の納得だって得られない」

「つまりこの問いかけではお互いの言い分は永遠に平行線だ」

「――そういうことね」

「だったら、僕たちの手番はこれでおしまいだ」

 ヒビヤとヒヨリはマリーと同様に引き際を心得て、アウロラの前から退いていく。

「それにしてもヒビヤ、主人公みたいだったね! 格好良かったよ!」

「そうか……惚れなおしたりした?」

「普段から格好良かったら考えてあげないでもないかな?

 っていうか、バーカ……! 何で私がヒビヤが好きなこと前提になってるの?! 惚れた? でしょ! 惚れなおしてなんかないもん……!」

 この『運命の女神』の世界では、会話が滑らかになり、言葉による積極性が増加するような効果でもあると言うんだろうか? 何となく痴話喧嘩風の甘酸っぱい空気を発散させている2人は放っておき、手番を次の団員へと回すことにしよう。