カゲプロ想像小説リライト。第46話。名探偵マリー最後の戦い。 | 墜落症候群

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墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 第46話。名探偵マリー最後の戦い。



「それで? お仲間で仲良しこよしで相談して、どんなチャチな案が出たのかしらね? たった3分で」

 カップラーメンに要する時間が3分……というような待ち時間の定番のネタを持ち出してきたのはアウロラ自身だったのだが、同時にメカクシ団にプレッシャーを与える意味だって勿論あったのだろう。つまり彼女は悲劇が好きなのだし、混沌が好きなんだろうし、余裕のない切羽詰まった状況下で足掻く人間こそが彼女の大好物なんだろうから。

 一瞬の沈黙があった。大体の方向性をコノハが半ば無理矢理のように打ち出しただけで、誰から話すのか等の話順すら決めていない。そんな中、最初に口火を切ったのはメカクシ団の団員でも、なかなか予想外な女の子だった。

「……、あ」

 マリーは両拳を腰の脇で握りしめ、ぶるぶると震えて、決意を固め、力を溜めるように1度してから、今度は右足を前に出しながら、まっすぐに右人差し指を突きつける。

「……あなたが犯人です!」

 流石にメカクシ団も呆気に取られる中、ジャンだけがマリーのことを察した。彼はマリーが何をしようとしているのかまでは分からなかったが、マリーそのもののことは他団員よりも知っていた。彼女はドジだし、一見何も考えてないように見える。しかし、数十年に及ぶ苦悩と想像の日々は伊達ではなく、マリーの頭の回転は誰よりも早いし、他人の言ったことへの理解の深さも伊達ではない。コノハの言った意見について、コノハ以上に何を成すべきかを分かっていたのが、もしかしたらマリーだったかもしれないのだ。

 マリーの考えていることが、キド(『アシスト』セト)による『オーダー』によって他団員の脳内にも伝えられる。それはこんな内容だ。

 コノハのアウロラの目的当てという話題の指定自体は、確かに何も知らない誰かとの話題設定という意味では有効だ。普通の人間相手には世間話でお茶を濁すことも不可能ではないだろうが、アウロラは知り合いではなく、今『メカクシ団』の生殺与奪を握るどちらかと言えば『敵』に近いポジションにいる。いやもっと言うならば、『メカクシ団』というテレビのドラマの登場人物に対する、テレビの前の視聴者と考えるといいかもしれない。ドラマの登場人物は演じているだけだが、『メカクシ団』のこれまでの『作戦』は彼らにとってそのまま現実である。アウロラという視聴者は、そんな彼らの現実をリモコンの切ボタンを押すだけで強制終了可能なのだ。

 そんな相手に対しては『話題設定』だけでは足りないのだ。それはどうしようもなく奇想天外だったりとか、アウロラの意表を突く形で展開しないといけない。アウロラにとってのエンターテイメントでないといけない。マリーはその為に『名探偵』を演じて、口火を切ったのだ。

「私は、あなた自身が自覚していない罪状を知っています」

「へえ? ふうん? それは『悲劇』を愛しているってことについてかしら」

「いえ、あなたは自分の本当の『目的』を勘違いしています。その無自覚さこそが、あなたの罪。

 私たちはその『目的』こそを暴いてみせます。もし、私に解けなくてもきっとその次に誰かが引き継ぐでしょう。

 私たちは『名探偵』となり、あなたそのものを暴くのです」

「へえ、もしそれが出来なかったら?」

「その時は、キド辺りがどうにかゴマをすって誤魔化して、何なら土下座でもして責任を取って、あなたに媚を売って逃がしてもらいますよ(キドは『オーダー』によりマリーの意図を察していたのでかろうじて口を挟むのを堪えた)」

「そんなんでいいの? 『正義の味方』が」

「私たちは、『正義の味方』である以前に、『名探偵』である以前に、『メカクシ団』ですから。三十六計逃げるに如かず。社会的弱者互助集団に取って、勝利とは逃げ延び生き延びることなんですよ」

「へえ……それじゃあまずあなたの『想像』から、聞かせてもらいましょうか」

「それでは始めます」

 セトは感じている。マリーは口下手に見えて、実は口が回り始めれば人より考えていることが多い分、もう止まらない勢いで喋ることも多い。しかし、だからといって、今の状況に落ち着いて臨んでいる訳がないことは、その握りしめられた手により明らかだ。

 緊張の中で今も必死に戦うマリーを、セトはただ静かに見つめている。