TIPS3.キラ事件概要 2011/06 | 墜落症候群

墜落症候群

墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 4月1日から10人のまったくの健康体の人間が、毎日往来で死んでいるという統計データが、ネット犯罪対策班の若手捜査官から提出された。
 何故、ネット対策班がそんなことを追っていたのかが問題視されたが、それは業務時間外に趣味で調べていたことだという。
 趣味で捜査資料を使っているだけで責任問題は免れなかったろうが、それはその捜査官の親がもみ消した。
 そして、その情報は確かな事実に基づいていたのである。
 デスノートの主人公からキラ事件と安直に世間では呼ばれることになるこの事件は、しかし、あのマンガの主人公のような犯罪者のいない世の中を目指したものではなくて、ただの無差別殺人だった。
 警察が検挙できている犯罪はごく一部だと言われているが、このキラ事件が露見したのは何故か。
 すべての殺人が大多数の見守る往来で起こったからだ。
 これらの不審死の存在は当然、警察も認識していたものの、それぞれの管轄が別個の不審死として処理していただけであり、原因不明ではあるものの、結び付けられた殺人とは見ていなかった。
 この不審死が連続殺人事件として捉えられたのは、若手捜査官の功績とも言えるだろうが、彼が結局謹慎を食らったということも事実としてここに記す。
 警視総監の異例の記者会見によりこのニュースは話題になったが、警察組織の不明を恥じる――何せ、事件が始まって一ヶ月経つというのに、何らこの犯人像も掴めていないし、殺人方法も不明と来ているのだから――警視総監の涙ながらの報告、土下座でもするんじゃないかコイツという有り様は国民の嘲笑を買ったものの反感をうまく封じ込めたところから、皮肉な情報筋の人間からは警察によるキャンペーンなんじゃないかという意見が出たりもした。

 とにかく東京では6月現在でも10人ずつの死者を出し続けている。
 警察は未だに犯人像やその殺人方法を一切掴めていない。

 外出者が減ったという統計データが出てはいるが、今日も通勤電車はいっぱいで、そしてまた今日も東京のどこかで誰かが殺される。

 ……この俺によって。