初めはその事件を誰もがいたずらだと思った。
「俺は現実世界に君臨したキラだ。今日から東京の人間を根絶やしにしようと思う。
取りあえず毎日これから10人ずつ、東京の住民を心臓麻痺で殺していく」
そのデスノートのキラ風の語りに、掲示板はそれほど賑わなかった。
まあ、当たり前の話だと思う。
前提として、超能力なんて存在しないし、デスノートだって存在しない。
この現実には。
だから、この事件は僕が従兄弟の若い刑事に興味本位で話してみなかったら、発覚しなかった可能性もある。いや、それは流石に自分の影響力を買いかぶりすぎか。
まあ、そもそもどうして、僕がその書き込みに興味を持ったかと言えば、当然僕が心臓を爆裂させることによって、たまに人を殺しているからなのだけれど――
取りあえずそのことは置いておいて。
僕がその話をした若手刑事は、ネット犯罪対策班という得体の知れない部署で働いており、かつ警察の上層部の親を持っているというなんかヘンなヤツだった。
そして、それ以降、僕も話したことすら忘却していたのだけれど。
5月1日。
書き込みから一ヶ月後に警視総監が発表した。
「東京都民のみなさん、この事実を信じていただけるかは私も自信がありません――
しかし、事態は傍観できる領域を越えている。
今、東京では1日に10人がまったくの健康体でありながら、死ぬという事態が発生しています。
これを捜査当局では、未知の方法による殺人事件だと考えています」
いつから僕の住む世界はこんなに狂ってしまったんだろう? とむしろ警視総監の頭を心配しながらも、いやしかし、そんなことを爆弾魔(ボマー)の僕が思うことこそが、そもそも荒唐無稽なのかもしれないとも感じたのだった。
だって僕、超能力者だし。