キドバージョン。
その日は随分と平凡で
当たり障りない一日になるはずだった
だがしかし、そうはならなかった。
「おいおい、いくら隠密組織だからって、皆買い出しをサボり過ぎだろ……」
冷蔵庫の中は空っぽである。
これでは料理しようにも食材がない。
引きこもりのマリーはともかく、他の奴らまで買い物に行かないとはどういう了見だ。
料理は作ってやっているのだから、買い出しくらいは済ませるべきではないのか。
俺はちょっと小言を言うべく、アジト内を見回してみた。
すると気付いた。
マリーを含め、全ての団員たちの姿が消えていた。
マリーバージョン。
その日は随分と平凡で
当たり障りない一日になるはずだった
勿論、私も信じてそう疑ってませんでした。
今日も、丹精込めて、花を1本、2本と作っていた所、
私少し眠気に襲われてしまいまして、眠ってしまったんです。
目を覚ますと、丁度夕暮れ時、私はみんなに紅茶でも入れようかと、お湯を沸かしていたんです。
微妙な不安というか……違和感がありました。
あまりにも……あまりにも静か過ぎるというか。
形のない不安を、私は感じました。
そこから必死に目を逸らすように、「いつも通り」に紅茶を淹れ、私はメンバーの集うテーブルのある部屋にそれを用意して運びました。
……そこには誰もいませんでした。
漏れそうになる声を必死にとどめ、転びそうになりながら私はアジト内を駆けたのです。
しかしながら、そこには、誰の姿も、書き置きすらも、残ってはいませんでした。
私は泣きそうになりながら、ただそこにぺたん、と座り込んでしまいました。
七氏さんと弦楽炉さんによる、マリーバージョン続き。
目の前が見えなくなるほど泣いていると、机の裏側に何かが張り付いているのを発見しました。
それは“G”古くから地球に存在する黒い悪魔
「ひぃ…。」
誰にも届かない悲鳴を上げ、涙で溢れた目をさらに涙で溢れ返しながら私は自分の部屋に戻りました…
しばらく部屋で引き籠っていると、ドアをノックする音が聞こえました…
「みんな…帰ってきた!?」
そんな期待を胸に、ドアを開けたら…
G「世界はさ、案外怯えなくても良いんだよ…」
私がGに気づいたのとGが飛び立ったのはほぼ同時でした
Gは強く羽音を響かせ迫ってきます
必死で逃げようとしましたが、先の出来事に腰が抜けて動くことがままならない…!
私はもう動くことも出来ず目を閉じました
あれ?
いくら経ってもGが私に接触することなく、気付けば羽音も無くなっていました
私は恐る恐る目を開けます
次第に開けていく視界
視界の先の床にGはいました。上からの圧力により潰れた状態で
私は助かったことに安堵したのも束の間
恐怖しました
私以外が消えたアジト。ならば、このGは何故“潰されている”のかと――――
天田による続き(まとめ)。
しばらく私はその潰れたゴキ……いえ、口に出すのも恐ろしい何かの辺りをぼうっと見ていました。
そういえば、私には、ゴキブリ等よりももっと、大変な事態に巻き込まれていたのではなかったですか。
しかし、「誰もいないはずなのに潰されたゴキブリ」「いなくなった皆」を繋ぎ合わせて考えてしまえば、事態の把握は案外容易と言えました。
「キド……? そこにいるんでしょ?」
「流石にバレるよな……しばらく静観してるつもりだったんだが……」
「何でこんな事を?」
「いや、サプライズパーティをしようと……あれ? お前まさか、自分の誕生日を忘れたって訳じゃないよな?」
そうでした……考えてみれば……というか何というか……。
私、あんまり、引きこもり生活が長かったせいか、正直曜日の感覚どころか、日付の感覚まで吹っ飛んでしまっていましたが、
今日は7月21日、私の誕生日ではないですか!
「まあ、そんなこんなで俺の目を隠す能力を使って、隠れたまま準備を進めてたんだが……」
「私があの……アレに襲われているのを発見したと」
「そうだ。まあ、誕生日を祝ってやる相手にイヤな気分をさせてるんじゃ仕方ないしな」
「ありがとうございます……」
「もう大体、準備出来てるぞ。マリー誕生日おめでとう」
先程、がらんとしていた談話室のテーブルには、料理やケーキが並べられ、簡単にではありますが、部屋全体が丁寧に飾り付けられていました。
「誕生日おめでとう!」
セトがにっこり笑顔で言うさまに私は嬉しくなり、
「おめでとう……マリー」
カノがニヤッと笑みを浮かべながら言うのに、私は頷きます。
ああ……何て幸せなんだろう……。
……………………もし、これが本当の出来事であったのなら。
全ては白昼夢に過ぎず、私はかび臭いアジトに今も一人、そこには団員も、例のアレも、ともかくすべての生物が存在せず、まるで時の流れから外れたように静か。
ああ……本当は分かっていたんです。ここがどんな場所かなんて。
私には、きっとあの素晴らしい仲間との出会いすらも過ぎた幸せで、ずっと一人きりで、あの家に引きこもっているのがお似合いだった。
ならば、これは過ぎた幸せに対する対価、天罰のような物かもしれません。
泣き過ぎて水分を喪った私の目から、ただ一粒だけ涙が零れ落ち、床の埃に吸い込まれて消えるのを、私は為す術もなく見守っているだけでした。
ここは、きっと取り残された世界。私は……どこにも向かえない。
「誰にも続かない」。
END.
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