Uzakさんのカゲロウプロジェクト『妄想小説』 自己嫌悪 | 墜落症候群

墜落症候群

墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

彼がパソコンを起動させる。
パソコン中に住む私にとっては、それが目覚めとなる。
いつもと何一つ変わらない風景だ。
けれどその日は激しい頭痛と嘔吐感に見舞われた。
昨日の記憶が曖昧だ。

だからあれは夢だったんじゃないかと思ってしまう。
私はジェニファーが死ぬなんて信じたくなかった。
でも戻ってしまった記憶と脳裏に焼き付いたジェニファーの死んでゆく姿が、現実に起きたことだと見せつける。
その結論に至った私は、立つことすらままならなくなった。
悲しさや恐怖、そして怒りと憎悪が小さな心臓を埋めつくしていく。
自分がもう自分ではない何かに侵されていく気がした。

「……おはよう、エネ。」
彼がいつもの様に笑いながら話しかけてくる。
その態度に、また憎悪が込み上げる。
「…………。」
発狂しそうになる心をなんとか抑えつける。
彼が視界に入らないようにデスクトップから姿を消し、声が聞こえないようにヘッドフォンで耳を塞いだ。

「……そういえば、あの日も同じことをしたんだっけ?」
ジェニファーや彼と過ごした日々を思い出せたことは、正直嬉しかった。
私も普通の人みたいに、ちゃんと生きてた……それだけは救いだったのかもしれない。
だけど、あの日のことは二度と思い出したくはなかった。


家族も友人も……全ての人類が狂って逃げ惑ったあの情景は、地獄絵図そのものだった。
私は何者かに導かれるように、丘の上の病院に走らされた。
飛び交う怒号や悲鳴を横目に、真夏日のアスファルトを駆け抜けた。
その先には、巨大な彼が笑いながら手を叩いていた。
あの時は、さすがの私でも自分の目を疑ったよ。
だって……私達の生きた世界がまさか彼に支配されていたなんて思わないじゃない?
それに彼はジェニファーと、クラスメイトの男子と共に行方不明だったんだから。
その後は、確かあの世界に爆弾が落とされて……私の記憶はここで途切れてた。


「なんでこんなことになったんだろう……。」
涙がとめどなく溢れる。
「あんなに幸せだったのに……。」
左手を見つめる。
こんな自分にプロポーズしてくれた彼。
教師と生徒の恋なんて夢物語だとばかり思ってたのに、それを叶えてくれた。
それをジェニファーは自分のことの様に喜んでくれた。
ちょっと照れ屋さんだったけど、真面目で素直でとても優しかった彼女。
そんな日々は跡形もなく散った。

もう、希望もなにもなかった。
「もう殺してよ。私を殺せよおおおおお!!!!」
死にたい。
死にたいのに……。
「こんな最低な人間、お願いだから消してよぉ……。」
それでも生きたいと願ってしまうんだ……。


その時だった。
いつも閉まっていたドアが開いた。
何故かは分からない。
彼が開けたのかもしれない。
ただ、私はそこから逃げ出したかった。
私はそのドアを潜った。
彼女がそこに残したのは、薬指にはまっていた指輪と彼への愛だけだった。


 ①笑顔~天才の過去~