その日は母の病院付き添いの為、たまたま休みを取っていて。

午前中、母の診察が終わった後なら病院へ行ける。

 

 

朝からソワソワ。

 

母に、私が別件で病院へ行くことを悟られないよう

頭の中で移動の段取りをする。

もちろん母に今回のことを伝えるつもりは毛頭ない。

 

受付時間に間に合うといいな。

 

 

健康診断の結果を受け取ってからこの日まで

ありとあらゆるものを調べ、

最悪の結果まで想像しつくした。

されど、もうなるようにしかならない。

何が起きても最善。

見えない世界はわたしを応援してくれている。

腹は括っていた。

とは言え、未知のものはやはりこわい。

 

 

母の付き添いを終え、膵臓内科専門医のいる大きな病院へ。

調べに調べ、迷いに迷ってこの病院へと決めた。

とは言え、この病院が最善なのかはわからない。

とりあえず午後一の受付には間に合った。

 

受付で、会社の健康診断で要精密検査になったことを話し、診断結果の用紙を渡す。

診察の申込書をもらい記入する。

膵臓専門の科へ案内されしばし待つ。

 

 

数年前、白血球過少の再診をうけた時もこの病院。

亡くなった叔父が入院していたのもこの病院で。

叔父はコロナ禍の中、家族に見守られることなく

旅立っていった。

叔父もこのソファに座って 診察を待っていたのだろうかと想いを馳せると切なかった。

 

 

待合室で待つ。

程なくして順番が来た。

もしかしたら今から何某かの告知を受けることになるかもしれない身にとっては

心を落ち着かせる時間なんてものは無かった。

 

設置してある消毒液で手を消毒し、診察室へ入る。

「よろしくお願いします〇〇です。」と名乗る。

 

目を合わせない医師。

診察申込書には「健康診断で要精密検査の指示があった」と記入し、

健診結果の用紙を添えていた。

担当医師にいきなり

「のう胞のサイズは?」と聞かれる。

 

「…???。(用紙には膵のう胞の疑いとしか書いてない)」

鳩が豆鉄砲食らったかのよう、とは多分このことだ。

 

「画像とか持ってきてないの?普通何ミリとか教えてくれるでしょ!」

と、なぜか怒鳴られる。

・・・いやいや何ミリとかアタシは知らんし。

あたしゃ要精密検査ってことしか知らんのだよ・・・。

 

(え?塩対応?)と怯みつつ、

「健診で精密検査を受けるよう指示があったので」と、提出した健診結果を見せると

気まずかったのかそれ以上突っ込むことはせず、

話を進める医師。(しかし目は合わさない)

 

(何かあったのか機嫌悪かったのか そういう人なのか 古いタイプの医者なのか、ああ昔はこんな医者も居がちだったなぁ…などと頭の中で小さく疑問を転がす。)

 

「今日はご飯を食べましたか?」

「いいえ」

(待ってました!検査があるんじゃないかと敢えて食べてこなかったよー)

 

 

「じゃ、造影剤を入れてCTで診てみましょう。

血液採って腫瘍マーカーも調べますからね」

 

検査室へ移動する。

(ああ、絵に描いたようなあかんタイプの医者だなぁ・・・

まさかそんな昭和な医者にあたるなんて想定してなかった。)

と、数多のもやもやを消化する間もなく

次々とタスクがやって来る。

検査室の階へ移る。

薄暗く壁も古い。

なんだか病気になりそうな空気感。

あ、病気だからここに居るわけだが。


右腕で血液検査を済ませ、

CT前室にて着替え、

造影剤を入れる用の注射器を左腕に装着。

 

着替えの場所がちゃんとしておらず

狭いスペースでカーテンをさらっと引いただけ。

チラチラ見えそうな感じ。

プライバシーがないのは

どうなんだろう。(それはこちらの病院がそこに重きを置いていないからか?やっぱ昭和かよ)


やや乱暴に患者を呼ぶ看護師。

男女もへったくれも無し。

着替えもままならぬご高齢の女性

機械的な流れ作業について行ける訳がない。

人間の尊厳って何だよ。

イヤな裏社会を覗いてしまったかのような錯覚。

早く立ち去りたい。


ゴムバンドで腕を縛り上げ、

大きめの注射器を装着される。

縛り上げられた腕に刺さったままの大きめ注射器。

見た目がいかつい。

ちょっとひるむ。

それをつけたまま、歩いて移動。

同じ目的の患者さんが数人居て、

待合室は何かの宣告を受けに来た人たちの集まりのような

なんとも言えない空気感。。。


ああ

いつぞやかまでは健康だった自分が

なんでこんな所に…という思いが去来する。


 

窓もなく、日の当たらない暗い廊下

ここは監獄か?(おっと失敬)

 

 

血液採取の際、看護師さんに

「注射で具合悪くなったことはありませんか?」と聞かれ、

こんな時に一瞬 中学生の時に貧血を起こした記憶が蘇り、

返答にモゴモゴし掛けたが、あまりにも昔の記憶。

「ありません」

ああ、今はなんと図太くなったものか。

 

 

CT検査室へ入室。

腕まくりできるものを着ていたので着替えは無し。

ベッドに横たわり検査が始まる。

 

途中「造影剤を入れまーす」と声がかかる。

さっき装着した注射器に造影剤が注入される。

造影剤で病変部分が映し出されるということらしい。

熱くなりますからね、とは聞いていた。

本当に熱さが身体のそこかしこを巡り、血管を通って行くのがわかる。

 

おどろおどろしい注射器を外してもらい、後日結果を待つことに。

なるようにしかならない。

わが身、まな板の鯉。

 

 

続く