彼との衝撃的かつ変態的な出逢いと、愛に至る道のりを語っていきます。

 

これは彼との愛の物語


 しばらくの間は、不倫カップルの平穏な時間が過ぎていった。週に一度の逢瀬を心の拠り所にして、お互いがそれぞれの生活を送っていた。
  彼との会話はいつも笑いが絶えなくて楽しい。お互いの日常のことを話したり、変態仲間の噂話をしたり。
 車やバイク、サッカーや格闘技の話は私にはよくわからないけれど、熱心に説明してくれる彼を見ているとなんだか微笑ましい。
 そんな彼だけれど、彼はよく腹を立てる。私に対して怒ったことはないけれど、仕事や運転中や奥さんのことでよく怒る。

 彼は自分の仕事にプライドを持っているので、サボったり下手なことをする人がいると腹が立つ。
 彼は昔は走り屋みたいなこともしていたし、トラックの長距離ドライバーもしていた人で、車の運転も上手い。今ではすっかり安全運転で無茶なことはしないし、特に私を乗せているときはほんの少しの揺れですら気にして謝る。
 そんな彼が無謀や危険な運転を見かけると、途端に柄が悪くなる。「ダラ(方言で馬鹿の意)、ボケ、カス、死ねや!」と悪態をつく。煽ったりされようものなら、「あったまきた!ちょっとゴメンな」と言ってやり返す始末。
 そんなヤンチャくさいところも好きなのだけれど。

 私とは喧嘩らしい喧嘩もしたことがないくらい、私の前では彼は穏やかな性格である。ところが妻との衝突はままあるようだ。
 喧嘩にもならないけれど、お互いが腹を立ててそっぽを向く状態らしい。彼より4歳年上の妻は彼を子供扱いで、何かにつけて上から目線でものを言うのが気に入らないのだとか。
 口喧嘩で負ける気はしないけれど、妻がヒステリックに喚き散らすのが嫌で喧嘩はせずに彼の方が黙ることにしているらしい。
 料理が苦手で食事は冷凍食品かお惣菜。息子には惜しみなくお金を使うのに、彼には仕事道具や医療費さえ惜しむ。
 あまり笑わず、陽気で話し好きの彼の話もつまらなそうに聞くだけ。
 よくある冷めた夫婦関係。

 彼は若い頃はモトクロスのレーサーを目指していた。結局夢破れはしたけれど、今でも趣味としてモトクロスを楽しんでいる。
 サッカーも彼の趣味のひとつ。地元の社会人チームに参加して、週末には練習や試合にも出ている。
 そんな彼はよく怪我をする。そんなときでも妻はたいして心配もせず「怪我するのが嫌ならやめれば」とあしらわれる。
 虫垂炎で入院したときだって、面会にすら来ない。長年のつきあいなら彼の寒がりだって知っているだろうに毛布ひとつ持ってこない。

 そんな妻との関係を知れば知るほど、私は腹が立ってきた。
 私ならもっと彼を大切にするのに。彼のことが大切じゃないなら、いっそ別れてくれればいいのに。
 しかしお互いに既婚者。私は子供たちさえ問題なければいつでも離婚していい、むしろしたいと思っているけれど、子供たちのことや生活の安定を考えるとそう簡単にも踏み切れない。それに私だけ離婚したところで彼が既婚者では意味がない。
 冗談めかして彼に言ったことがある。
「スマホ換えるついでに嫁も換えちゃえば」
 すると彼は少し困ったように笑って言った。
「そう簡単にはいかないよ。今はこんなんでも、一度は生涯守ると誓った女を簡単には捨てられない」
 離婚となると溺愛している一人息子の親権とか経済的な問題とか、いろいろ問題もあるだろう。確かに簡単じゃない。でも、こんなカッコいいことをサラッと言ってしまう彼だからこそ好きだし、生涯守ると誓ったなんて男気のあるところが好き。仕方ない。彼がそう望むなら、私はいつまでも愛人でいい。
「だよね。それじゃ私は年上の奥さんが先に死ぬまで待ってるよ。80歳くらいまで待てばいいかな。長生きしなきゃね」
「あっちが80なら俺86やん。俺が先に死ぬわ」
 なんて2人で笑いあった。




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