彼との衝撃的かつ変態的な出逢いと、愛に至る道のりを語っていきます。
これは彼との愛の物語
しかし間もなく終わりのときはやってきた。夫の家計費の使い込みが発覚したのだ。
毎月4万円程度のカードの支出があるのは把握していたけれど、カード払いの方が都合のいいこともあるだろうし、月々5万円の小遣いの範囲で使っているものと信じていた。
生活費は私の収入から支出して、残りは夫が貯金する約束になっていたのだ。それが旅行や車検でお金が足りなくなって貯金額を訊ねたところ、貯金はほとんどないことがわかった。カード払いの他に月々の小遣い5万も別に遣っていたのだ。
これから子供たちにもお金がかかるというのに、この経済観念のなさ。怒り心頭であった。
「もう嫌だ!今度こそ離婚する!」
この夫としても子供たちの父親としても落第点の男の無駄遣いために毎日キツい仕事と家事をこなして、節約のために努力してきたのだと思うと怒りしかなかった。
「小遣い1万にしてもいいから許してくれ。なくたっていいから考え直して」
「信じられるわけないでしょ?今まで約束したこと、何かひとつでも守れたの?」
そうなのだ。前の離婚騒動から半年ほどで、既に努力すると約束したことを何ひとつ守れていない。家に帰れば自室に籠もって家庭内ひきこもり。手をつないだりキスを求めることもなくなったのはありがたいけれど。子供たちをすぐに怒鳴りつけることも変わらない。
こうして夫との結婚生活は幕を下ろした。
子どもたちはあっさりと離婚を承諾し、私との生活を選んだ。日頃の父親の行動に腹を立てていたのは私だけではなかったからだ。
しかし困ったのは犬のことだった。ペット可の賃貸もあるにはあるけれど、小型犬か猫限定のところばかりで中型犬を飼える物件がないのだ。子どもの犬嫌いを治すために飼い始めた犬だけれど、元夫は動物があまり好きではなかったし、2年ほど飼っていても可愛がりもしない。置いていくわけにはいかなかった。
私は結婚するまでは子供の頃からペットのいない生活をしたことがなく、大の動物好きだ。可愛い愛犬を手放すことを考えるだけで泣けて仕方がなかった。
「クッキーを手放すことになったらどうしよう」
想像するだけで泣き出してしまう私を彼は優しく抱きしめて励ましてくれた。
「まだ諦めることない。俺も一緒に探してやるから」
彼も子供の頃から犬を飼い続けている犬好きだ。ペットショップで売れ残っていたちょっと不細工な仔犬の行く末を案じて買ってあげてしまうような人だ。そんな人だから私の気持ちもよくわかってくれた。
どうにか狭いながらもクッキーと暮らせるマンションを見つけて契約を決めたときは、彼も我がことのように喜んでくれた。
かくして始まった新生活。しかし早々に問題が起きた。
やっと引っ越しも終わり、いよいよ子供たちを引き取る段になって娘が言い出した。
「やっぱり祖母ちゃんのとこにいる。クッキーが怖い」
子供たちは小さい頃から犬が大の苦手だった。散歩中の小型犬でさえ近くを通ると悲鳴を上げて逃げていた。飼い主に申し訳ないくらいに。
それを治そうと愛らしい仔犬の頃から育てさせることしたのだけれど、結局娘は克服せぬまま。
子供たちの転校を避けるために新居は近い場所にしたので、来たいときには歩いてでも来れるということで、新生活は私と息子とクッキーとで始まった。
彼が遠慮せずに家に来られるようになり、私たちのデートは様変わりした。家で私の手料理をふるまい、私のベッドで抱き合う。
ちょうどコロナ禍が始まった頃で変態仲間も夜の公園に繰り出さなくなっていて、巣篭もりデートが主流になっていった。
最初はクッキーがなかなか彼に懐かなくて弱ったものだった。クッキーは生来臆病な犬で、知らない人が近づくとベッドの下に隠れてブルブル震えているような犬だ。特に大人の男性が苦手で、オヤツにも釣られない。
しかし慣れるに従って徐々に距離は近づいていき、だんだんクッキーも調子に乗るようになってきた。そうなると元来のお転婆を発揮するようになる。
遊んでいるうちにクッキーが彼の手をガブリ。気の優しい犬で滅多に呻ったり強く噛んだりすることはない子なのだけれど、そのときは少し強く噛んだのだろう。
「痛っ!」
「キャイン!」
その声はほとんど同時だった。クッキーが噛むと同時に電光石火の彼のゲンコツが炸裂したのだ。
私は叱るときもクッキーのお尻を平手でしか叩いたことがなかったので、頭にゲンコツは衝撃だったのだろう。クッキーは怯えてベッドの下へ。
それ以来クッキーにとって彼が我が家のリーダーになったようだ。私には甘噛みをするのに彼には一切しない。一緒に家に入ってくると私一人の時より大喜びで、真っ先に彼のもとへ駆けつける。
「犬なんかに絶対負けん。噛みついてきたら噛みかえしてやる!」
そう言って笑う彼は、実際に家で飼っている犬に噛みついて降参させたことがあるらしい。
もちろん私にとっても彼が我が家のリーダーである。
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