彼との衝撃的かつ変態的な出逢いと、愛に至る道のりを語っていきます。
これは彼との愛の物語
〇〇シネマ周辺を少し車で探索しながら私を家に送り届ける道のり、彼は私に指一本触れなかった。
〇〇シネマを出るときには周りの男たちに「そのままホテルでも行け」と冷やかされたけれど、彼はただ私を気遣うだけだった。
「そんな気分じゃないのはわかってる。悪いのは全部Yって奴だから、あんまり自分を責めるなよ」
ただ別れ際に
「何か困ったことがあれば、何でも相談して」
と電話番号を書いたメモを渡してくれた。
帰宅してからがまた大変だった。研修だと嘘をついて出ていたから、荷物は置き引きに遭ったことにしたものの夫は布団から起き上がる様子もなく、真夜中に10分ほどかけて徒歩で警察署に盗難届を出しに行った。
突然の土砂降りの雨に打たれて歩きながら、初対面の女の身を案じて家まで送り届けてくれた彼の温かさが思い出された。
更に翌日から実家に帰省する予定で、私が普段乗っているファミリーカーが必要だけどその鍵もない。当時家のリフォームのための仮住まいに一時的にアパートに住んでいたから、工事中の家にスペアがあるはず。それも私一人で探しに行った。
夫はただ怒るばかりで、真夜中の街を妻一人で歩かせることなんて心配する様子もない。
ほとんど眠らないまま急遽スマホを機種変更という形で新しくして、実家のある愛知県へと向かったのだった。
もう既にこのとき、この名前すら知らない男性に恋をしていたのだろう。2泊3日の帰省の間、考えるのは彼のことばかりだった。
まずは石川県に帰ったら助けてもらったお礼の電話して、それから現状の報告して…。また会えるかな?会いたいな…。
21時頃石川県に戻るとすぐ、彼に電話する時間を取るために「飲み会の二次会に誘われた」と嘘をついて家の近くの駅で車を降りた。実によく回る舌である。
少し緊張しながら彼に電話をかける。少ししゃがれた低めの声に胸が高鳴った。
「先日はありがとうございました。わかります?」
「ああ、この前の…。いやいや、いいんだよ。その後どう?大丈夫?」
そして私たちはファミレスで待ち合わせて、話をすることになった。
「まさか電話もらえると思ってなかったからびっくりしたわ」
と彼は笑顔で現れた。
初めて明るいところで彼を見て思った。こんなカッコいいひとだったんだ…。
よく日焼けして、イスラム系のハーフといえば信じそうな濃い系の顔立ち。キリッと凛々しい眉にくっきり二重でまつ毛の長い瞳。まさに私のどストライク!
「顔色悪いな。大丈夫か?」
そう優しく声をかけてくれる。そんな彼の優しい微笑みに、家族の前ではひた隠しにしていた不安や憤りがあふれ出してきた。
彼はそんな私の話を親身に聞いてくれた。そして私の気持ちをよく理解してくれた。
「自分のことより、家に迷惑かけたことがしんどいんやな」
仮住まいのアパートの鍵、車の鍵、スマホなどを盗られているから、いつ押しかけられてもおかしくない。夫にバレて離婚になるのはいいとしても、子どもたちのことが心配。
馬鹿なことをしたと悔やむ私に彼は言った。
「私ちゃんは悪くない!悪いのは全部そのYって奴や!」
そして驚くことに、彼は独自に調査を進めていたのだ。募集の上がっていた掲示板でYを名乗る人物がいないか、過去に同じような募集がなかったかなど調べていた。
これといって有力な手がかりもなかったけれど、そんな彼を頼もしく感じた。
ストレスで体調は悪かったものの家族の前では平静を装っていたのに、彼に会って気が緩んだのか急激な吐き気で2回吐いた。そんな私を気遣うように彼は話題を変えてくれて、しばらく世間話もした。
趣味のモトクロスやサッカーのことを楽しそうに話す彼を見ていると、自然と心が和む。
みっともなく2度もトイレに駆け込むなんて失態を晒しながらも、実に楽しい一夜になった。
別れ際、自然と私の口から言葉がこぼれた。
「また会える?」
「うん!是非に。今度はドライブにでも行こう」
そう答えた彼の少し驚いたような、それでいて嬉しそうな笑顔が可愛いと思った。