彼との衝撃的かつ変態的な出逢いと、愛に至る道のりを語っていきます。

 

これは彼との愛の物語

 
 あれこれ詳しいことは聞かないけれど、彼にも過去に付き合っていた女性は何人かいる。若い頃付き合っていて実家のある青森に帰るというので別れた彼女がいた。数年後に知ったことであるけれど、別れたときに彼の子供を身籠っていたらしい。彼女一人で産んで育てていたのだけれど、その子は2歳になる前に死んでしまった。彼はそれを知ってから、毎年秋頃に青森まで死んだ息子の墓参りに行っていた。
 
「俺ももう50になるし、そろそろ今年が最後かな。青森までぶっ飛ばしていくのもしんどくなってきた」
 彼のプランはゼロ泊3日の弾丸ツアー。昔はトラックのドライバーで長距離も走っていたと言うけれど、さすがに心配になる。
「私も一緒に行っちゃダメ?運転の交代もできるし」
 遊びではないのだから不謹慎なのは重々承知だけれど、彼と3日も一緒に過ごせるチャンスでもある。
 断られるかと思いきや、彼は承諾してくれた。

 せっかくの機会だし彼にきちんと眠る時間もとってほしくて、2日目の夜はホテルを予約した。それが大失敗に繋がることも、そのときは知らずに…

 

 出発は夜9時頃。土砂降りの雨だった。

「流石にこれじゃスピード出せんな」

 なんて彼はぼやきながらも軽快に車を走らせる。少し前かがみになって目を細めながらハンドルを握る彼の横顔に、私は見惚れていた。

 少し黙ってじっと彼を見つめる私に、彼は優しく声をかける。

「どうした?大丈夫か?眠たかったら寝てていいんやぞ」

「なんでもない」

 微笑む私の手を彼がぎゅっと握る。車の中ではいつも私の右手と彼の左手を重ねて彼の膝の上。

 会話が途切れても、ときおりちらっと私の方を見て彼が私の手をぎゅっと握る。こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいと思った。

 

 まだ暗い午前3時頃、車は東北地方にさしかかっていた。

「さすがに疲れたしちょっと寝ようかな」

 彼が言って、道の駅に立ち寄った。駐車場の片隅に車をとめて、しばしの仮眠。その間も手をつないだままで、私が少し身体を動かす度に彼は目を開けて私を見る。

「大丈夫か?」

 そう声をかけてはまた軽いイビキをかきはじめる彼を起こさないように、私は眠れなかった。


 2時間ほど眠った後、そろそろ出発。まだ薄暗いながらもずいぶん車の数が増えた。ずいぶん広い道の駅で、トラックや乗用車があちこちにとまっている。駐車場を出るものと思いきや、どうも彼の挙動がおかしい。薄暗い駐車場をとまっている車の間を縫うように徐行していく。

「怪しい車はおらんな」

 どうも彼の変態趣味が始まったらしい。カーセックスをしている車を探しているのだ。ひとしきり駐車場をウロウロしてやっと諦めたようで、再び車を隅の方にとめる。

 シートを倒してもう少し眠るのか思いきや、彼が私の手を彼の股間に導く。

「刺激ちょうだい」

「今?」

 苦笑いの私。

 それでも既に硬くなった彼のモノを愛撫すること1時間ほど…。

「よし、やる気出た」

「Kのやる気スイッチは下半身についてるのね」

 そうして笑いあいながら、旅は続いていく。

 

 日も昇って道が混み始める。お昼前には目的地に到着するはずだったのが、墓所に着いたのは昼下がりの頃だった。お寺の近くで花を買い、子供のお墓にやっと到着。

「私は待ってた方がいい?」

 お墓で眠る子にとって私の存在は微妙だと感じたから、そう聞いてみた。父親の新しい彼女に参ってほしくもないかもしれない。

 しかし彼は、私の手をぎゅっと握って言った。

「いや、いいんや。この子なら会わせてもいいと思ったから連れてきたんや」

 そうして2人、幼い命を失くした子供の墓前に手を合わせる。

「この優しいお父さんは私が必ず幸せにするから、見守ってあげてね」

 そう心で呟いた。


 特に観光地に寄ることもなく、お土産にリンゴを買ったら早々と帰路につく。目指すは新潟県の海辺にあるホテル。私が予約しておいたところだ。

「遠いな…。間に合うかな」

 彼がつぶやく。

 方向音痴で近所でさえ距離感が怪しい私のこと。彼が思っていたプランからすると、ずいぶん的外れなところを予約してしまったようだ。

 「ま、なんかなるやろ」

 笑ってハンドルを握る彼だけれど、予約の17時チェックインにはとうてい間に合いそうもない。

「ごめんね。距離の認識が甘かったね」

 恐縮してうつ向く私に、彼は「大丈夫や」と優しく笑いかけた。

 しかし距離と時間はどうにもならない。途中ガソリンが切れかけてやむなく高速を降りて一般道に出たものの、田舎の山道で急勾配急カーブが続く。

 日も暮れて心細くなってくるし、焦りと疲れのせいか彼の口数も減ってくる。

 怒ってるのかな?そりゃそうだよね。私が地理をよくわかりもせず勝手に決めたんだから。夜通し走って疲れてるだろうに慌てさせて…。そう思うと涙が出てくる。

「泣かなくていいの。大丈夫だから」

「ごめんね」

 優しく私の頭をぽんぽんと叩く彼に、謝ることしかできなかった。


 やっとホテルに着いたのは20時も過ぎた頃だった。遅い到着にも親切に対応してくれたホテルスタッフの方々のおかげでやっと寛ぐことができた。

 しかし寝不足と疲れから、食事を済ませるとせっかくの温泉にも入らずに2人して寝落ち。


 朝、彼より早く目覚めた私だけは朝湯を楽しんだけれど、部屋に戻っても彼はまだ眠っていた。しばし彼の寝顔を眺めてから、彼の願いを叶える千載一遇のチャンスにニヤリとする私。

 彼は常々言っていたのだ。

「目覚ましフェ○して欲しいなー。フェ○で起こされたら最高に気持ちいい目覚めやろな」

 彼を起こさないようにそっと彼のパンツを下ろす。まだ軟らかいままの彼のモノを口にくわえたときに彼は目を覚ました。

「目覚ましフェ○、してあげたかったんだ」
「最高」
 そして窓に手をついて、海を眺めながらのバック。
 しかし残念なことに外は土砂降りの雨でどんよりとしたネズミ色の空の下で波が荒れ狂っている。
 「晴れてたらいい景色やったろうな。これじゃ散歩してる人もおらんし、ギャラリーもおらんな。つまらん」
 こんなときまで見せたい欲望を口にする彼に半ば呆れながら笑ってしまった。
 こうして最後はなんだか残念な結果に終わってしまった慰霊の旅。彼が離婚でもしない限りは、最初で最後になるかもしれない2人きりの旅行。
 それでも私にはこの上なく幸せな旅だった。

「ほんとゴメンね。怒らないでくれてありがとうね」
「俺のために考えて取ってくれた宿やろ。海辺の景色のいいとこで。そう思ったら怒れないよ」
 帰りの車の中で交わしたこんな会話。
 この人を選んでよかった。この先もずっとこの人と一緒に生きていこう。そう思った。

 
 
 
 
 
 
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