彼との衝撃的かつ変態的な出逢いと、愛に至る道のりを語っていきます。

 

これは彼との愛の物語


 冬がやってきた。寒くなってくると屋外で遊ぶ変態の姿も減ってくる。それでもチラホラとミニスカ着用の女装男子たちが東屋に集っている。
「あいつら頭おかしいやろ。この寒いのにミニスカて。俺には無理や!」
 彼は寒がりなのでそんな悪態をついて、公園での立ち話もそこそこに車に籠もるようになっていた。

 そんな季節のデートの夜、彼と私は仲睦まじくファミレスで食事をしていた。いつもの如く彼はよく喋る。私は楽しそうに話す彼の話を幸せな気持ちで聴いていた。
 突然彼が少し声を潜めて、こんなことを話し始めた。
「この前さ、3Pに誘われて行ってきたんや」
 ドキリとした。3Pということは1人は女性がいるということ。しかし人目をはばかって声を落としはするものの、あまりにも自然に当たり前のように話すので、私は愛想笑いで黙って聴いていた。
「それがさ、どうも女の子が騙されて来たらしくて泣き出しちゃったんや。誘ってきた男もそうとは知らずに紹介されたみたいで」
 世の中にはHやYのように女を玩具にする男が少なからずいるらしい。
「だから結局やることもやらずに、二人して話聞いて慰めて帰ってきたんや。酷い話やろ。可哀想に」
 そこからは何を話したのか覚えていない。彼の話に相槌を打ちながらも私の頭の中では自問自答が繰り広げられていた。
 これって浮気なの?実際にエッチしてなければセーフ?彼もなんの罪悪感もないから平気な顔して話すんだよね?
 据え膳食わぬは…なんて言葉もあるくらいだから、男には断れない時だってあるよね?変態を自称するくらいだから、そりゃ3Pとか興味あるよね?でもそれを彼女に言っちゃうのはどうなの?黙って浮気されるよりはいいの?
 別に束縛するつもりもないししたくもない。彼が好きなことを心置きなくして欲しいから、ここは笑ってスルーがいいよね?私を好きでいてくれる限り、遊びのひとつやふたつは許さなくちゃ。
 でも…彼のことだから可哀想な女の子がいたら放っておけないよね。私だって可哀想なことになってたから助けて、なんとなくつきあい始めただけかもしれない。もし私よりその人の方が好きになったら?
 彼にその気がなくても、その人が彼を好きになって迫られたら?それは十分にあり得る。彼は優しいし男前だし…

 私の胸の中はみるみる不安で一杯になっていく。どうにか堪えて笑顔を作ってはみたけれど、彼には気づかれてしまったようだった。
 店から出て車に向かう最中、不意に彼が私の顔を覗き込む。
「どうした?」
 彼の優代わりに涙があふれた。
「なんでもない」
 無理に作り笑いをして顔を隠そうとする私を車の助手席に乗せてから、彼は私をぎゅっと抱きしめた。
「なんでもないことないやろ。どうした?泣くな」
「ほんとになんでもないの。ちょっとヤキモチ妬いただけ」
 彼はハッとしたように一瞬の間をおいてから、更に強く私を抱きしめて言った。
「ごめん。もうしないから。あっちが嫌ならもう他の女とはやらない。でも、本当に何にもなかったんや」
「いいの。KはKの好きなことすればいいよ。私はKを束縛したくない。こうして私を大事にしてくれるなら、遊びくらいいいの」
「俺は束縛されたくないとか思ってない。あっちを悲しませるようなことしてホントにごめん。だから泣くな」
  そして彼は今にも彼の方が泣き出しそうな顔で胸を押さえて言った。
「あっちが泣くとここが苦しい」
 そんな彼の姿を見て、私は愛されているんだと実感した。今度は別の意味で涙が止まらない。
「泣くな…」
 そう言って私の頬を伝う涙を指で拭う彼に、私は泣き笑いで言う。
「泣き虫なんだもん。仕方ないよ。Kが何したっていいけど、ヤキモチ妬いて泣くのは許して」

 彼に悪気は全くなかったのだと思う。ただ感覚が違ったのだ。自らを変態と称し変態仲間とつるんでいる彼にとって、3Pなんてただの遊びに過ぎず、決して私の気持ちを裏切るつもりなどなかったのだ。
 そしてそれを自然に私に話してしまったのは、私を彼の理解者だと思ってくれていたのだろう。それは喜んでいいことだ。
 この先理解に苦しむこともあるだろうけれど、このひとについていこう。そう思った。